仕事情報誌ドカント

宇梶剛士 宇梶剛士
 俳優・宇梶剛士。人情味のある役を演じる彼が10代で残した肩書きは『暴走族総長』。アイヌ出身の母親に反抗し、中学で家を出て野球に熱中、暴力事件を引き起こして退学するという波瀾万丈の人生を経て、いかにして性格俳優の道を切り開いたのか。著書である『不良品』にも語られない、素の気持ちを滔々、蕩々と話す姿勢からは元不良の影は見えてこなかった…。

INTERVIEW /前田裕子 PHOTO/谷口達郎

---本作に出会ったきっかけは?
監督が『不良品』を読んで、演技は下手だけど(笑)、一途さを伝えられる俳優だからお願いしたといわれました。監督のイメージで牛之介と僕がシンクロしたのではないかと思います。

---原作者の中島らもさんと交流は?
10年以上前から知り合いで、先輩と後輩としておつき合いさせていただいてるんですが、プロデューサーがらもさんに映画化の話を持って行ったとき、『宇梶さんがいいんじゃないの』っていったとか…後づけかもしれないけどね。

---撮影期間はどのくらいだったんですか?
準備期間を入れると4カ月程度。ケビン山崎さんという巨人の清原選手についているトレーナーの元で食事療法と、ジムでトレーニングをしたんだけど、目に見えて体が変わっていくの。まず腹がひっこんで、ぜい肉が落ち…体重は12キロ太ったんだけど、筋肉だけが残って。それから役柄で中年の体にするために、脂肪をつけなきゃいけないんで、ご飯を食べた後にまた大盛りの親子丼を食べたり。辛かったですね。

---そういう宇梶さんを見てスタッフの反応は?
笑ってましたよ(苦笑)。常にお腹をすかせないように気を使っていて、休憩中もバナナを食べていたので『ゴリラみたい』といわれたり。

---逆に楽しかったことは何ですか?
大日本プロレスの方々と新横浜の道場でトレーニングをしたのは面白かった。実際に体を使うのはキツかったけど、楽しまないことは役者である自分が目減りしていくのと同じだから、反演劇行為になるんです。嫌々やったら身につかないけど、楽しんでやれば実になるんだ。

---映画の見どころは?
プロレスのシーンと、子供との関係ですね。 家族のためにガチンコ勝負をするという役柄は、自分とかぶるところがあって、台本を読んで幾度涙したことか…。でも演じていて感情に溺れないようにしました。もちろん、感情のこもってない言葉は口から吐いてはいけない。でも溺れてもいけない、どこかで俯瞰していないと。

---現在は俳優としても成熟し、  家庭でも2人のお子さんがいらっしゃいますが、  ご自身の小さい頃は感情で動く性格だったとか。
限界を知らない子供だった。喜怒哀楽はハッキリしすぎていて、願ったことは何でも叶うって思ってた。アイヌ出身で自由に生きる母親に反発して、中学校で家を出ちゃったし。

---学生の頃は野球選手を目指したそうですが、  なぜ夢を果たせなかったのでしょうか。
しごきの厳しい練習にも、監督の不理解にも、何より自分に負けたんでしょうね。

---そのころ心の支えになったのは?
友達ですね。僕もガキなら周りもガキだから、人を支える人格も度量もないんだけど、一緒にいればその日はやりすごせる。将来のビジョンなんてなくて、やることも曖昧で無気力で…。

---その生活の中で暴走族のメンバーになり、  やがて2000人のリーダーになったそうですが、   大勢を統括できたのは何故だったのでしょう?
元から持っていた性格かなぁ。暴力での支配はやりたくなくて、弱い者いじめや自分からケンカを売ることもなかったし。尊敬できる不良として迫力と親近感はあったと思うけど…。

---暴力事件をきっかけに少年院に入り、   理解してくれる方と出会って更生し、   チャップリンの自伝を読んで俳優を目指しました。
役者になろうと思ったのは単純に憧れてたからなんですけど、仕事を積み重ねていくうちに、思い、知ってきたことがきっかけで前向きに生きられるようになっていったのかもしれません。辛いことばかりで座り込んで動けなくても、生きるって前を向くしかないからね。

---元・暴走族だったということで、   最初はコワモテの役柄が多かったと思いますが。
見た目で自分が役柄に配置されていることもあってジレンマも抱えたけど、例えば暴走族ってひとくくりにしても、ちょっとだけグレてるとか、初めて集会に出たヤツ、これでいいのかなって思っているヤツ、みんなそれぞれに人生があるわけだから。

役者も同じで画面一回きりではなくて、人生が滲み出るような役をやりたい。犯罪者の役だって、生まれたときから悪人っていないから、何でこいつがこうなっちゃったんだろうって考えてカメラの前に立ちたかったわけで、それは人生を演じる役者として、僕自身としての叫びですよ。

--- その頃はまだ仕事や生きることに迷いがあった   時期だったのでしょうか?
結婚して家庭も持ったんだけど、家に帰らないで、人生すべてに関して毒ばかり吐いてたよ。20代は依然として暗闇から脱出してなくて、家庭から逃げようとしたけど逃げ切れずに、やっぱり向き合っていこうと思ったり、逃げたりと繰り返してた頃だった。

---迷いから抜け出したきっかけは何ですか?
フッと肩の力が抜けたのは、『あなたは今、暗いところから飛び出して、明るい世界にやってきたのよ』という美輪明宏さんの言葉です。素敵な人と同じ場所や時間を生き、いつか同じ舞台で演じたいという思いが励みになりました。

---尊敬できる方が現れたことが、   ご自身のターニングポイントだったんでしょうか?
美輪さん、菅原(文太)のおやっさん…あげたらキリがないけど、出会いは人生を変えるよ。 それと全く面倒を見てあげなかった子供が、泣きながらすがりついてきて、地球上でコイツだけはオレを必要としてるって感じたとき、自分の中で何かが変わったね。

---人のために生きていこうと思ったんですか。
それまでは他人によくしてもらってるくせに、心の底では信じることができなかった。何で自分が生きているのか理由が分からなくて。 だからこそ人間はコミュニケーションしたり、居場所を探したりするんだろうけど…世の中で生きていきたいと思っていながら、他人を恨んだり憎んだりしてきたのが体に染み付いてて…。

---そんなご自身の生き方に変化が生じたと。
子供にむしゃぶりつかれたとき、オレにもやることがあるじゃんって。求められてるなって。それを感じて涙がとめどなく流れたときに、自分の心の汚いものも流れた気がするんです。

---具体的に生活が変化したことは?
離婚して別れたカミさんの両親が面倒を見てくれていたんたけど、とりあえず養育費だけは払っていこうと。 でも俳優業では食っていけなかったから、肉体労働のバイトをやったりして。



---宇梶さんにとって、俳優とは何でしょう
生きるということ。でもキャスティングされなきゃ出ていけないから、指名されるまで待つ時間が重要だと。一年中撮影しているわけではないし、演じているときより休んでいる時間のほうが大事だと思ってます。

---準備期間は何をしているんですか
心を開いておくことが重要ですね。物事を深く考えたり、自分の内面を見つめることで、何でも取り込めるように間口を広げているかな。

---そこから得たものは?
「何で俺は生きているんだって考えることで、一山いくらで見られたり、落ちこぼれはこっち、みたいな偏見を持たれたりすることに抗うわけですよ。 イメージに反抗しながらも、どうして自分がこの役柄に配置されたのか悩んで、役をどんどん掘り下げていくようになりました。

---いろいろなキャラクターを演じてらっしゃいますが、   役それぞれにも人生があると
自分の立場で台本を読み、偏見で見ていると表面上でしか演じられない。なにかこの一文に意味があるんじゃないかって、素直に心を開いて入っていかなきゃ。 それを何年も続けていく上で役者として生きることが価値になってきた。これは僕にとって大事件だったんです。

---それは役者になったばかりの頃、 迷ったり   悩んだりした結果、見えてきたことでしょうか
…後づけかもしれないけど、今考えるとそうなのかもしれない…。他人を非難しちゃいけない、でも批判はしていなきゃいけない。だから役者である以上は感情で話し、悪口をいったりすることが、意味を持たなくなるんだよね。

---『他人を非難しちゃいけない…』というのは   劇団3○○の渡辺えり子さんの言葉ですね
えり子さんとは、美輪さんに紹介していただいて知り合いました。俳優とはなんたるかを仕込んでくださった一人で、いつまでたってもえり子さんには頭が上がらないです(笑)。

---そんな尊敬する方々に追いつく術があったとしたら、どんな方法を取りますか?
「人を目指すより、自分を見つめたほうが人生にとって有効な時間だと思う。だって人は人だから気にしててもしょうがない。僕にとって他人は鏡だし、オレと美輪さんはこんなにレベルが違うけど、いろんな話ができるってことは僕にはすごくいい鏡があるってことですよ。 でも飲み屋でクダまいて、誰かとケンカして醜い顔をさせたとしたら、自分も同じ顔をしているんです。醜いものと対峙していくと、人生自体が曲がっていくと思うよ。



---それがご自身の人生哲学?
いや…哲学って言葉の墓石だと思う。言葉は生きてるのに、哲学は言葉の持つ意味を煮詰めて最後に残った、それ以上崩せないものだから。墓石を背負って生きてったら、自分も重いし、押しつけになるから人もうんざりさせる。

---人とのつき合い方のお手本ですね。
後輩もそうで、僕に意見をどんどんいってくれるヤツとだけ一緒にいるね。自分の意見は僕が正確に、具体的に表現できるから、コピーが周りにいたってつまらない。違う価値観とセッションしないと、向上しないと思うし。

---いろんな方と出会う上で、道が開けたことも   ありますが、忘れられない人生で最大の挫折は?
挫折ばっかりだからねぇ。でも僕が弱かったり気を抜いていたから失敗しただけで、それを誰かのせいにしたら人生はどんどん先細りになるでしょ。スケールを大きく生きたいんじゃなくて、決めたくないんだよ。

---宇梶さんに肩書きがあるとしたら?
肩書きも持ちたくないね。だって同じ身分の人にしか出会えなくなるから。立場でモノをいったり、負けたくないって斜に構えることはファイティングポーズを取ることだから、僕の人生は豊かでなくなっちゃう。

---人生に成功があるなら勝ち取る方法は?
成功ではなく、結果はあるんじゃないかな。でも結果が全てじゃない、人生は過程や道すがらに意味があると思う。 もし成功したと感じたら、そのときに人生が頭打ちになると思う。

---それでも成功したい人にアドバイスをするとしたら?
…夢を持つことかな。目標をイメージすると、達成までの見えない階段ができあがるから、自分が何段上がったのか下がったのかを考えていくと、体験したことが実になっていく。ビジョンを抱いていないと、ただ時が経っていくだけ。 他人に振り回されるより生きている証を積み重ねていったほうが、人生に実感が持てるんじゃない? 親のいうこと聞いていい会社に入って、自分を持たずに生きている人は、他人の悪口ばかりいうものなんだよ。

---フリーターといわれる人に一言お願いします。
昔はフリーターって言葉がなくて、落ちこぼれが将来に不安を抱いたり、負けたくなくて手に職をつけて生きてたの。不良同士でも職につかないヤツを『あいつはだめなヤツだ』って落ちこぼれがさらに落ちこぼれを見つけて笑ってた。

自分も昔、母親に『あんたが自由にやるなら、俺も好きにやらせてもらう』っていったことがあるけど、それは勝手なヤツが同者を否定しただけだった。 気ままに生きて適当にやっていると何も身につかないよ。バイトが何かのいいわけになってないか、働くことすら逃げになってないか? 時は残酷だから知らないうちにおきざりにされるよ…。ってカッコつけて話してることが恥ずかしくなってきたなぁ(笑)
INFORMATION
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『お父さんのバックドロップ』
監督:李闘士男(第一回監督作品)
脚本:鄭義信
原作:中島らも 『お父さんのバックドロップ』 (集英社文庫刊)
出演:宇梶剛士、神木隆之介、南果歩、生瀬勝久、 南方英二、奥貫薫、エヴェルトン・テイシェイラほか

『チャンプ』『ライフ・イズ・ビューティフル』『リトル・ダンサー』そして『お父さんのバックドロップ』暖かくて切ない感動作が誕生した!

「新世界プロレス」の悪役プロレスラー、下田牛之助を父に持つ小学生の下田一雄はプロレスが大嫌い。お父さんの職業を恥ずかしく思う息子にいいところを見せようと、牛之助は無謀な挑戦を決意する。

父を思う小学生の胸のうちと、息子のために命をかけた勝負に挑む父親の姿をハートフルに描く感動作。何年もの間、切望されていた中島らもの同名小説、待望の映画化。数々のテレビドラマ、バラエティーを手掛けてきた、李闘士男の初監督作品。

初秋、渋谷シネ・アミューズ他にて感動のロードショー。
配給:シネカノン

シネカノンHP
http://www.cqn.co.jp




PROFILE

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宇梶剛士(うかじ・たかし)

1962年8月15日、東京都新宿区生まれ。俳優。
代表作に「ウルトラマンガイア」「ひとつ屋根の下」「サイコメトラーEIJI2」「ママの遺伝子」映画「GTO」など、数々のドラマや映画に出演する他、舞台では作・演出も手がける。
また、バラエティー番組などの出演も多数。
著書に「不良品 オレは既製品じゃない!」
(ソフトバンク パブリッシング ¥1500(税抜)



公式サイト↓
a crow in the dark
http://www009.upp.so-net.ne.jp/a_crow_a_pigeon/




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