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- 目に見えぬ貧困。“ネットカフェ難民”の増加。(2)
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前編に続き、平成30年1月に東京都から発表された、
“住居がなくインターネットカフェや漫画喫茶などを寝泊まりのために利用している人”いわゆる「ネットカフェ難民」に対するアンケート調査結果について、更に考察を進めたい。※東京都「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査報告書」
調査結果を簡単にまとめると…。
●東京都内には、1日約4,000人のネットカフェ難民がいる。
●オールナイトでネットカフェを利用している人の、
25.8%が、「住居がなく、寝泊まりするため」に利用している。
●そのうち、約3,000人(75.8%)が、
派遣労働者・契約・パート・アルバイト等の不安定就労者である。
- 現在の“ホームレス”の姿とは…。
- 一方、公園や路上などで暮らすホームレスの数は、年々減少してきていると言われている。
東京都は、平成29年5月「路上生活者概要調査」の結果を公表した。
その調査によると、
同年1月に確認された東京都の路上生活者(ホームレス)は1,397人であったという。
約20年前、平成11年度の5,800人をピークに、その数は年々減少している。
確かに20年前といえば、都内の駅構内や公園などでホームレスを見かけない日はなかった。
新宿戸山公園のある一帯などは、
ブルーシートで造られたホームレスの一大テント村の様相を呈していた。
最近ではそのテントもほとんど見かけなくなっている。
5,800人から1,397人へ減少。
この数値を見ると、国や自治体の対策や救済措置(生活保護費の支給や、ワンルームの賃貸部屋を一定期間、格安で提供する等)が功を奏しているように思われるが、
果たしてそうなのだろうか。
日本におけるホームレスの定義は、
「都市公園、河川、道路、駅舎、その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」とされている。
先に挙げた1,397人というホームレスの数も、
公園や路上、河川敷等でテントに住んでいたり、駅やビルの谷間にダンボールを敷いて寝ているような「目に見える」ホームレスの人数を数える方法から算出されたものである。
一方、アメリカやヨーロッパ等の諸外国では、
「自己資金で契約した保証された住居を持たない人」をホームレスと呼んでいる。
日本では施設などに入居した人はホームレスとはカウントされないが、
アメリカ等では、施設入居者もホームレスと見なしている。
改めて、ネットカフェ難民の数である。
都内で1日4000人。
これは路上生活者(ホームレス)の数より3倍近く多い。
日本の定義では、ネットカフェ難民はホームレスとは見なしていない。
しかしどうであろう、これは現在のホームレス(=住居がない人)の主流が、
路上生活者からネットカフェ難民に移行していると言えるのではないか。
しかし、ネットカフェに暮らすホームレスは、その存在が非常に見えづらく、
実態を把握することは容易ではない。
ホームレスという貧困問題は、路上という目に見える場所から、
ネットカフェという「見えにくい」場所へ舞台を移している。
そして先に挙げた「ネットカフェ難民」に関する調査からも、
その高齢化や長期化は進んでいる。
- 自分、ネットカフェ難民でしたよ。
- ここに、2年前までネットカフェを生活の根城としていた勇二さん(仮名)がいる。
現在は吉原のソープランドで中堅従業員として働いている34歳の男性だ。
20代の頃は不動産系の会社で営業職の正社員として働いていた。
24歳で結婚して子供が一人。贅沢は出来ないが普通の生活をしていたという。
「最初の転落(笑)は、借金ですね」
仕事も役職に就き収入も安定してくると、
それまでキッパリと止めていたギャンブル熱が再び高じてきたという。
パチンコ、パチスロ、競馬、競輪…。果ては怪しげなゲーム喫茶まで…。
なんとか自分の給料で賄えているうちは良かったのだが、
消費者金融に手を出してから、家庭と仕事を失うまでは早かった。
家にも会社にも督促の電話が鳴り止まなかった。
会社には居づらくなり成績もガタ落ちし、クビ同然で自主退社。
子育てに奔走していた妻からは三行半を突きつけられた。
「もちろん職も貯金も、何もない状態で家から追い出されましたから…」
最初は友人や知り合いの家に泊めてもらったりして凌いだ。
しかしそんな生活も長続きするはずはない。
寝床を提供してくれる知り合いも底をついてくる。
いつしか週に1度寝泊まりに利用していたネットカフェに、
週に3日、週に5日と通う日数が増えていく。
気がつくと、ネットカフェと日雇い現場の往復が、勇二さんの日常となっていった。
「仕事は基本的に“日雇い”や“期間工”の仕事ですよ。
まず住所がないですから、まともな会社では雇ってくれません。
うるさいこと言われずに、即勤務が可能なんで、
工場の仕事や倉庫での搬入作業、建設現場の仕事とかを中心に働いてました。
日給8,000円とか、良くて日給10,000円とかの収入でしたね。
もちろん“日払い”が絶対条件です。
その金で、1日だいたい2,000円がネカフェ代。
毎日絶対仕事があるわけじゃないので、
食事してちょっと酒でも飲んだら、手持ちの金が小銭だけになるような生活でした」
それでもネットカフェ利用代に1日2,000円程の費用が必要となる。
月にすると約60,000円である。
都内のワンルーム賃貸でも、贅沢を言わなければ、充分に借りられる金額ではないか。
「いや、日雇いの現場とか、期間工の仕事って、
毎回違う場所に通うことになるから、交通費もバカにならないですからね。
都心の駅前にあるネットカフェの方が楽だったりしますよ。
それに家さえ借りればいいってもんじゃないですから。
電気代や水道代、テレビや冷蔵庫とか家具なんかも買わなきゃならないし。
ネカフェには、シャワーや洗濯機とかほぼ全ての生活インフラが揃ってますから。
『ネットカフェ難民なんて悲惨』とか言う人が多いけど、意外と快適ですよ(笑)」
なるほど。住めば都か。
他人が慮るほどつらい生活ではないのかも知れない。
- 体を壊したら全てが終わる…。
- そんな生活に変化が訪れたのは31歳の時。
ネットカフェ難民生活が3年目に突入しようかという冬だった。
「ひどい風邪を引きまして、ほぼ1ヵ月まともに仕事が出来なかったんです。
保険証もないから病院にも行けないし、
金がもったいないから、暖房の効いたデパートの地下とか…、
昼から夜までは外で震えて過ごすんです(笑)
夜、ネカフェに戻っても周りに気を使って、咳を我慢して寒い個室で眠って…。
手持ちの金がどんどんなくなっていく恐怖と戦ってましたね。
ああ、そろそろ公園に行くしかないかなあ…とか」
確かに、ある部分では快適であるネットカフェでの生活だが、
やはり不安定な立場であることに変わりはない。
勇二さんも言っているように、
住民票がなければ、正社員での安定した就職先も見つけづらい。
そしてこのように体調を崩したり、バイト切りにあったり、ちょっとしたきっかけで、
たちまち路上生活へと転落してしまう危うい生活基盤なのである。
「会社を辞め、離婚して、家も失い…。
ネカフェ難民をしていた時は、なんか自暴自棄になってましたね。
人と会うのも、話しをするのも煩わしかったというか…。
仕事も日雇いで取っ払い(日払い)の“その日暮らし”でしたから。
仕事場で会う人達も現場が変われば二度と会わないし、まともな会話もしないですから」
「だけど、あの冬、所持金が底をつく恐怖を味わってから、考え方が変わりましたね。
体が動かないと全てが終わってしまう。
誰も助けてくれないし、一旦歯車が止まったら転げ落ちるしかない。
このまま路上生活のホームレスになるかもって思いました…。
30歳そこらでこんな状態でいいのかって…」
そんな人間関係や社会とのつながりから距離を置いていた生活の中、
先の見えぬどん底の状態から、勇二さんの気持ちに変化が起こる。
「この生活を終わらせたい。ここから抜け出したい。
まともな仕事がしたい。人とのつながりのある仕事がしたい」
この思いが、自暴自棄になっていた勇二さんの気持ちを奮い立たせ、
ネットカフェ難民から脱却する原動力となる。