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寮完備・風俗業界の仕事で貧困から脱出

目に見えぬ貧困。ネットカフェ難民の増加。(3)
勇二さんはいかにしてネットカフェ難民から脱出したのか?
前編①前編②に続き、平成30年1月に東京都から発表された、
“住居が無くインターネットカフェや漫画喫茶などを寝泊まりのために利用している人”いわゆる「ネットカフェ難民」に対するアンケート調査結果について、更に考察を進めたい。
※東京都「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査報告書」

調査結果を簡単にまとめると…。
●東京都内には、1日約4,000人のネットカフェ難民がいる。
●オールナイトでネットカフェを利用している人の、
25.8%が、「住居がなく、寝泊まりするため」に利用している。
●そのうち、約3,000人(75.8%)が、
派遣労働者・契約・パート・アルバイト等の不安定就労者である。
●この都内で1日4,000人という人数は、
路上生活者(ホームレス)の数よりも3倍近く多い。
●ホームレスという貧困問題は、路上という目に見える場所から、
ネットカフェという「見えにくい」場所へ舞台を移している。
元ネットカフェ難民、勇二さんについて。
前編②でも触れた、勇二さん(仮名)は現在34歳の男性。
2年以上の期間を“ネットカフェ難民”として過ごした経験を持つ。
20代の頃は不動産系の会社で営業マンとして働き、妻子にも恵まれ幸せな生活をしていた。
しかし収入が安定してくると、友人に誘われるままにギャンブルにはまり込んでいってしまう。
消費者金融にも多額の借金を重ね、会社も退職、妻にも見捨てられてしまった。
仕事も帰る家も失い、知り合いの家に泊めて貰いながら、派遣の仕事に登録して日雇いや期間工の仕事をこなしていったが、次第に泊めてもらえる友人も少なくなり、自然とネットカフェで寝泊まりをする回数が増えていった。
最初は不自由さを感じていたネットカフェでの生活も、住めば都、慣れてくるとプライバシーは全く守れないが、中々に快適であったという。
しかしながら、日雇いバイトの日給をアテにしたその日暮らしである。
1日8,000円~10,000円程度の日払い給料を握りしめ、食費からその日のネカフェ利用代2,000円を支払っていく生活では、幾ばくかの余裕も生まれない。もちろん貯金などは夢のまた夢である。
しかし職も家族も失い、自暴自棄になっていた勇二さんは、そんな生活を続けていく。

ネットカフェ難民の生活が3年目に差し掛かろうとしていた冬、勇二さんは体調を壊してしまう。
ほぼ一ヶ月、まともに仕事が出来ない状態となってしまった。
前編でも触れた、勇二さんの言葉を再掲する。

「ひどい風邪を引きまして、ほぼ1ヵ月まともに仕事が出来なかったんです。
保険証もないので病院にも行けないし…。
お金がもったいないから、ネカフェ代を浮かすために、暖房の効いたデパートの地下とかで座っていたり、 昼から夜までは外で震えて過ごすんです(笑)
夜、ネカフェに戻っても周りに気を使って、咳を我慢しながら寒い個室で眠って…。
手持ちの現金が日に日に少なくなっていく恐怖と戦ってましたね。
ああ、そろそろ公園に行くしかないかなあ…とか」


確かに割り切って考えれば、1人で暮らすのは、気ままで自由な側面も多分にあるだろう。
だが、いったん窮地に追い込まれてしまった時は、誰も助けてくれない現実もある。
この所持金が底を突いていく恐怖感を味わってから、勇二さんの気持ちに変化が起こる。

「こんな生活から抜け出したい。人とのつながりのある仕事がしたい」
とにかく長く働ける仕事。そして、家賃無料の“寮”があること。
「希望条件は、1週間とか2週間とかの期間工や日雇いではなく、長期で働ける仕事を探しました。少なくとも、半年先や1年先も続けられる仕事を…。
そして“寮”があること。もちろん“家賃無料”で!それに絞って仕事を探しました。
贅沢ですかね?
確かに、何の資格も大した学歴も無い。年齢も30歳を越えてる。しかもネカフェ暮らしで住所不定ときてますからね…。
住み込みのパチンコ屋スタッフや、新聞配達員の仕事とかにも断られましたね…」


「やっぱり派遣とかに登録して、日雇いバイトをするしかないか…、ネカフェ暮らしを続けるしかないか…、って思ってた時に、今のお店の求人募集を見つけました。
ネットカフェのホームページの広告に出てた、“ドカント”で(笑)」


“寮費無料”
“家具家電付き個室寮”
“即入居可”
“年齢経歴不問”
“日払い可”
“食事代補助”
“体ひとつでお仕事スタート”

そのお店の求人情報には、沈んでいた勇二さんの心を躍らせるような待遇が記載されていたという。
「これだ!って思いましたよ。風俗の仕事とかは全く頭になかったので盲点でした。
深夜の12時近くだったけど、速攻でお店に電話しましたね、あせってたから(笑)」


こうして勇二さんは今現在働いている、吉原のソープランドA店(仮名)へとたどり着いた。

「それで面接の予約をしたんですけど、よくよく考えたらソープランドの男子スタッフの仕事って全く分からない。キャバクラなんかは行ったことあったけど、風俗はあまり経験がなかったから…。そもそも“吉原”ってどうやって行くんだ?とか(笑)」

「だけど“面接に行けば1,000円プレゼント”ってドカントに出てたから、まあ面接だけでも行ってみるかって思いましたね(笑)」



吉原・ソープランドA店の男性スタッフ募集条件とは…。
資格:20歳以上・普通運転免許必要
給与:月給28万円スタート
時間:午前10時から翌1時の間、実働10時間勤務
休日:週1日※3ヵ月目から月7日の休日
待遇:お店の近くの家具家電付きワンルームマンション寮に無料で入居可能。
   日払い希望者には、日額5,000円まで支給。残りは給料日に支払。

「実働時間が10時間で週休1日、一見きつそうな仕事に見えますけど、無料で社員寮に入れることや、日払いで給料がもらえるとこなんかは、あの当時は本当に有り難かった」

風俗業界に不慣れで、“吉原”の場所さえ分からなかった勇二さん。
ソープランドの男性従業員といえば、パンチパーマにダブルのスーツ、強面のイカつい人が出てくるのでは?と勝手に想像していたところ、面接には40代半ばの、一般企業の部長さん然とした落ち着いた方が現れて逆に驚いたという。

「男子の面接なのに、応接室に通されて、おしぼりやコーヒーに御菓子まで出てくるし…。
面接担当の人(今の勇二さんの上司)が、すごく丁寧に業界の説明をしてくれたので
『これならやれるかも』って安心できました。
昔、働いてた不動産屋のがよっぽどヤバかったですよ(笑)」


「嬉しかったのは、面接で色々詮索されなかったことですね。
『今、ネットカフェで生活しているので寮に入りたい』と言っても、
『大丈夫ですよ』って即答してくれて、それだけでOKでしたから」


それまで探していた仕事先では、“現住所を書けない”時点で、面接終了といった会社も多かったという。
勇二さんは、A店での面接時に、それまでの自分の境遇や、長く働きたいという希望、目標とする貯金額まで自分の気持ちを伝えた。

そして、無事その場で採用が決まった。

「最初の出勤日の時に、『新しい布団セットを買いますから』って、お店の先輩の方が寮に手伝いに来てくれて…。あの時の救われた気持ちは今でも忘れられないですね。
ずっとネカフェ暮らしで日雇い仕事の生活だったから、他人からの気遣いが嬉しかったですね」




そして勇二さんは、吉原・ソープランドの従業員となった。
こうして、何とかネットカフェ難民を脱出できたとはいえ、仕事が続かなければ元の木阿弥である。実際の仕事内容はどのようなものなのだろうか?

「正直、仕事は大変です(笑)。まぁどんな仕事も甘くはないですよ。
特に最初の頃は。自分は午後1時から翌1時迄の12時間拘束で、休憩は2時間の10時間労働でしたから。
そして、休憩時間以外は立ちっ放しの動きっ放しです。
各部屋の掃除に始まり、色々な買い出しや雑用全般をこなします。
4階建ての店ですけど、男子はエレベーターなんて使っちゃダメだから、階段を走りっ放しでしたね」


「働き始めて三ヶ月位は本当にきつかった。部屋に帰ったらバタンキュー。
休みの日も疲れているので、ひたすら寝てましたよ。おかげでパチンコへの興味もなくしました(笑)。毎日、お店と寮を行ったり来たりの生活でしたね」


それではネットカフェ難民時代と、あまり変わらないのではないか?と問う。

「いや、全然違いますよ。疲れとストレスは溜まりますけど、周りの先輩スタッフ達が色々とフォローしてくれますから。仕事も丁寧に教えてくれるし、たまに深夜仕事が終わったら、食事や飲みに連れて行ってくれたりとか。
もちろん、最初は日払いで給料をもらってましたけど、1日2回の“まかない(食事)”付きだし、ネカフェみたいに家賃もかからないから、お金も使わない(笑)」


そうした人間関係にも救われ、一番大変だと言われる新人スタッフ時代の最初の数ヶ月を乗り切れたという。

「仕事に慣れてくると、今度は楽しくなってきましたね。
公休は月7日とか8日に増えたり、拘束時間も短くなったりします。
もちろんお金の部分(昇給)も早い業界ですから、やりがいは感じますね」


「それに、この街(吉原)は勉強になることが多い世界ですから。
自分はこの商売は“究極の接客業”だと思ってます。
お店がプロデュースした“女性”という“人間”を売る商売ですから、
男子従業員も生半可な気持ちで仕事をするのは失礼っていうか…」


「新人時代にキツい仕事をさせられたのも、『この商売を舐めたらダメだ!』っていう教えだったんだと思ってます。
お客様はキャバクラやヘルスとか、他の風俗の店で遊ぶよりも高額の料金を払われるわけですから、女性コンパニオンも満足してもらうために、誠心誠意のサービスを提供します。
当然、男子スタッフも、お客様を車で駅に迎えに行く時から送り出す間まで、少しの“隙”も見せてはいけない世界なんだと思ってます」


吉原のソープで働き始めて2年程…。勇二さんの発言にも説得力を感じる…。

「いやいや、自分なんてまだまだ小僧です。ウチの店は良い会社なんで、男性スタッフの皆勤続年数が長いんですよ。十年選手がザラにいますから、いまだに怒られてます(笑)」



そんな勇二さん、現在のお給料は…。
「1年目で月給33万円、2年目に主任になって月給36万円です。
その他に、賞与が年3回支給されます。
“大入り手当”なんかも貰えます。その金額は…、秘密です(笑)」


今もまだ“寮”に住んでいるのだろうか。
「いや、1年半位で寮からは出ました。2年目からは3万円の家賃が発生するので。
店の紹介で、敷金とか礼金を無料にしてもらって、この近所に部屋を借りました」


「コレも出来ちゃったんで(笑)」
勇二さんは照れ笑いをしながら小指を立てた。

「寮といえば、今は面接の手伝いもしていて、入寮希望の新人男子が入社した時に、
新しい布団セットを買って来るのは自分の仕事なんですよ」


このように、吉原のソープランドで活路を見いだし、無事ネットカフェ難民から脱却した勇二さん。今のところは順調そうである。
吉原に限らず、風俗業界では“女性”スタッフに高待遇な条件を提示するのは当然だが、
近年では“男性”スタッフにも給与面から福利厚生面に至るまで、一般企業を比べても見劣りしないような厚待遇で受け入れてくれるお店(会社)も多い。
勇二さんのケースも、まさにその通りであろう。

ネットカフェ暮らしで住所も無く、日雇い仕事を転々としていた男性を、家賃無料で即社宅に入居させてくれる企業がどれだけあるだろうか。

ともすると色眼鏡で見られがちな風俗業界ではあるが、
昔から、複雑な事情やトラブルを抱えた女性達や、貧困に苦しむ男性達の“セーフティネット”の役割を果たしてきたことも事実であろう。
例えそれが一時的なモノであったとしても、行き場を無くした人々を“来る者を拒まず”といった度量の大きさで受け入れてくれる場所があるということが、今の世の中では重要なのではないだろうか。


そして、勇二さん。これからの目標は何なのだろうか。
「一番の目標は子供に会うこと。今まで何もしてあげてないから、少しはマトモになって、何か買ってあげたいですね。
後は40歳頃までには自分の店を持ちたい…かな。いや風俗じゃないです(笑)。居酒屋とかですね。
そのためには、まだまだ生活の基盤を作らないといけないです。まずは貯金ですね」


2年前、“お金がない”という現実が、どれだけ人を追いつめ気持ちを荒廃させるものか、身をもって経験したからこその言葉であろう。

「ネットカフェ難民から抜け出して良かったことですか?
2、3年後のことが考えられるようになったことです。
半年後にはいくら貯金して…とか、後輩スタッフを育てて出世してやろう…とか(笑)。
結局、日雇い派遣とか期間工なんかの仕事のままで家なんて借りてたら、かなりヤバかったと思います。速攻で追いつめられてたんじゃないですかね…。
やっぱり安定した仕事が第一歩でした」




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