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(最終更新日2018年2月23日 )

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風俗店への転職ストーリー


ここは都心の繁華街。とある雑居ビルでひっそりと営業するBAR
歳を重ねるに従って、年々月日の流れを早く感じる。
などと爺さん婆さんがよく言っているが、
最近では自分自身がそれをヒシヒシと感じてきている。

これでは、あっという間にジジイになっちまう・・・。
そんな焦りを紛らわすべく、今宵もいつものBARに向かう。

店は、深夜2時にもかかわらず混みあっていた。
珍しいこともあるもんだ。
いつもの常連客に混じって、一見らしき客もちらほら見受けられる。
カウンターの中でせっせと酒を作るマスターもホクホク顔だ。

「おっ、久しぶり!生きてたかい?」
カウンターに1席空いているのを見つけて座った私に、
マスターがそう言って声を掛けてきた。

が、そのセリフは、一昨日に店を訪れた時とまったく同じものである。
どうして歳を取ると、人は同じ話を何度も繰り返すのだろう。
記憶力の低下で、一度話したことをすぐに忘れてしまうのが原因なんだろうが・・・。
まあ私もその傾向は否めない。 

しかし、さすがに一昨日と同じ話の流れを、今晩も辿るのは勘弁である。
「そんな事より一見さんのところに行って、営業してきなよ」
そう言ってマスターを追い返した。
10年ぶりに再会・・・。この男の仕事は?
「お久しぶりです」
その後しばらくグラスを傾けていると、ふいに後ろから声が掛かった。
振り返ると、そこには歳の頃30代後半と思われる一人の男が立っていた。

えっと誰だったっけ・・・。
確かに見覚えはあるのだが、どうしても誰だかが分からない。
これも歳を取ると表れる老化症状の一つである。
私は『覚えてますよ~』といった顔つきで微笑みながら、軽い会釈をした。

すると、そんな私の様子を見て、彼は苦笑しながら言った。
「覚えてないですか? まあ、直接仕事で絡んだわけじゃないから仕方ないか。
ほら、昔よく“○○○○”って編プロに出入りしてたでしょ?」


ああ、その編集プロダクションの名前でピンときた。
確かに私は10年余り前、その編プロからたまにライターの仕事を貰っていたのだが、
彼は、当時その編プロに所属していた若手のスタッフだった。

その頃の彼といえば、ガリガリに痩せて、ロン毛にメガネに無精ヒゲ。
いわゆる“尖った編集者”然とした印象だったのだが、
10年の歳月を経て、いささか印象は変わっていた。

体には多少の贅肉がついてしまったようだが、
短髪に刈り上げた顔つきや、パリッとスーツを着込んだ姿など、
以前の“文系”なイメージとは結びつかない。

私が「ああ!」と声を上げると、彼は悪戯っぽく笑いながら言った。
「やっと思い出してもらえましたか。
まあ、あの頃とは見た目も変わっちゃったから仕方ないか」


そして、私の姿を改めて眺めながら続けて言った
「それにしても、昔と見た目が全然変わらないっすねえ(笑)。
まさか、まだライター稼業を続けてるんですか?」


「そう。まさか、いまだに何とか続けてるよ」

「へぇ、すごいなあ。○○○○(彼が所属していた編プロ)なんて、
すっかり縮小しちゃって、今じゃ、社長一人でやってるって話ですよ」


確かに、その編プロの名前はここ数年、とんと聞かなくなった。
しかし、それだと彼は現在、その編プロには所属していないことになる。
またそのスーツ姿からも、雑誌編集関連の仕事を続けているようにも見えない。
編プロの奴はたいてい小汚い格好をしている。私見だが・・・。

「それじゃあ君は今、何の仕事をしてるの?」

思わずそう尋ねると、彼は私の耳元に顔を近づけて、小声で言った。
「実は僕、編集関連からは足を洗って、今は“デリヘル”で働いてるんですよ」
◆編集プロダクションから、風俗業界への転職
「えっ、デリヘル? 風俗店で働いてるの?」

編集プロダクション勤務から風俗店勤務への転身。
この10年間で、彼の人生はどのように変わっていったのだろうか。
私は俄然興味を持った。

よし、今宵はこの彼(以下Y君)の話を肴に、酒を飲むことにしよう。
なぜ“編プロ”の仕事を辞めたのか?
編集プロダクションからデリヘルへの転職、そのきっかけは何だったのか。
すでにY君からは、働いていた編プロが業務縮小したという話を聞いているが、
その事も含めて、編プロの仕事を辞めることになった顛末から聞いてみる。

「編プロを辞めたのって、リストラされた感じなの?」

「そうですね。ご存知の通り、ネット全盛で本や雑誌は軒並み休刊や廃刊。
それで年々仕事が減っちゃって、5年ぐらい前に社長から、
『今後、君には外注(フリー契約)でライターの仕事を発注する』と言われたんですよ。
でも、そんな仕事を僕にくれる訳もないし、ただのリストラですよ」


これはY君の言う通りだろう。
編プロの社長が、仕事が減って従業員をリストラするために言い逃れをしただけだ。
そんな社長が、Y君に外注の仕事をくれるはずがない。
それにしても身につまされる話である。
私とて、今では食っていくためには仕事なんて選んではいられない。

だが、しかしである。
私の遠い記憶では、Y君は編集の仕事にかなりの情熱を持って取り組んでいたはずだ。
得意分野はスポーツ系。サッカーの知識たるや目を見張るものがあった。
この業界に未練はなかったのだろうか? 
だから敢えて聞いてみる。

「でも、その編プロは無理だとしても、
どこか別の会社に移って編集の仕事を続ける、っていう手もあったんじゃない?」


「まあ、それはそうなんですけど・・・。
実際に、編集の仕事内容についてはやりがいを感じていましたしね。
でも、その待遇や労働環境、そういうところに嫌気が差してきちゃったんですよ」


「というと?」
まあ、言わんとしていることは、非常に分かるんだが・・・。

「フフッ」
Y君は自虐的に笑いながら、続けて言った。
安月給に長時間労働・・・、の過酷な職場。
「僕の場合、給料は額面で月給15万円。手取りだと12万円ちょっと。
それで、月に10日近くは徹夜して、休日といえば月に2、3日。
一度計算してみたら、何と1日の平均労働時間が18時間を超えててましたよ。
時給に換算したら一体いくらだよって話ですよ。
そりゃあ、大手出版社の編集部だったらもっと給料もいいんでしょうけど、
その辺の編プロに移ったところで、どこも似たり寄ったりですからね」


「分かった分かった。皆まで言うな。コッチも切なくなってくるよ」

「だからリストラされた時、これもいい機会だし、
この業界はもういいかなって考えちゃったんですよ」


そんな気持ち、今も業界の片隅に身を置く私にもよ~くわかる。
クリエイティブな仕事をしたい・・・、
マスコミ業界で働きたい・・・、
有名ライターになりたい・・・。
実際、今でも夢や希望を持って編集業界に飛び込んでくる若者は多い。
悪質な編プロの経営者などは、その夢をエサに過酷な条件を突きつけてくる。
その若者の多くは、Y君のような悲惨な現実を目の当たりにして、散っていくのだ。
転職のヒントは取材先にあった!
こうして、編プロから足を洗ったY君。
しかし、次に選んだのは何故に風俗店の仕事だったんだろうか?

例えば、長時間労働に嫌気が差したのであれば、
次は9時~5時で土日休み、みたいな“カタギ”の仕事を探しそうなものだが・・・。

だから聞いてみた。
「編プロの仕事に見切りをつけたのはわかったけど、次が何故デリヘル?
風俗店も、どちらかと言うと勤務時間が長いイメージなんだけど」


「いや、嫌気が差したのは勤務時間の長さというか、
その時間に見合った給料が貰えなかったところなんですよ!」

「それと、何故に風俗店だったかというと、
編プロ時代末期に、アダルト雑誌の風俗コラムの連載を担当して、
その取材で風俗店を回っていた時に、ある店長さんと話が盛り上がって、
風俗店のスタッフの仕事について、色々教えてもらったんですよ」

「お客さんへの対応や、女性キャストの管理など、業務は多岐に渡りハードだし、
勤務時間も結構長くて体力勝負な部分もあるけど、とにかく稼げる仕事だと。
その店長の給料額も聞いたんですけど、月収200万円オーバーでしたよ」


「そりゃスゴイ!確かに風俗店の仕事は高収入だよね」
私がそう言うと、Y君は頷きながら言った。

「ちなみにその取材先っていうのが、今働いてるデリヘルのグループなんですよ」
そう言って彼が口にしたグループ名は、
風俗業界では知らぬ者のいない大手デリヘルグループの名前だった。

「なるほど、編プロを辞めて、そこの店長さんに連絡して入社したんだ」
すると、Y君は首を振りながら言った。

「いや・・・、今の店で働く前に、ワンクッション挟んでるんですよ」
プライドが邪魔をして、人に頼らず自分で転職先を探すことに。
「ワンクッション? どういうこと?」

「今の店で働く前に、別の店で働いてたんです」

「何で? その店って大手じゃん。何ですんなりそこに行かなかったの?」
そう私が言うと、Y氏は頭を掻きながら続けた。

「こんなことを言うと恥ずかしいですけど、プライドが邪魔したんですよね」

「プライド?」

「編プロの社員も、取材の時には『週刊○○です』とか、
掲載する雑誌の名前を口にするじゃないですか。
それもあって、あの頃の僕って、
なんか自分が“マスコミ”の一員みたいに勘違いしちゃっていたんですよね」

「今になって思えば、編プロなんて出版社のただの下請けで、
しかも駆け出しのスタッフにプライドも何もあったもんじゃないんですが(笑)」


「わかるわかる。オレも昔は“ジャーナリスト”気取りで、
肩で風切って歩いてたよ、黒歴史だわ(笑)」


「そんなプライドがあるから、取材先に
『実は働いていた編プロをクビになりまして、つきましてはお仕事を・・・』
なんて連絡するのが恥ずかしくて出来なかったんですよね」


まあ、気持ちはわからんでもないが・・・、それで?と話の先を促すと、彼は言った。
「それに、その頃は風俗業界の事もよく分かってなかったんで、
どこで働いても同じようなもんだろと思いながら、
高収入求人サイトを見て、適当に選んで、あるデリヘルに応募したんですよ。
編プロと違って風俗業界は人手不足なのか、結果は即採用でした」
そして風俗業界に転職、しかし・・・。
こうしてY君は、風俗業界にその一歩を踏み出した。

「で、どうだったの?初めて経験した風俗店の仕事は?」
私が尋ねると、彼は顔をしかめながら言った。

「それが・・、面接では月給25万円、プラス店の売上に応じて賞与を支給。
という話だったんですけど、そのお店、お客がホントに入ってなくて、
結局、賞与は一度ももらえず終い。
また、勤務時間は1日12時間のシフト制、ということだったんですが、
人手不足で、実際には店に泊まったりして、
1日17~18時間労働はザラでした。しかも休みは月に3、4日という有様で」


「おいおい、それってどっかの業界の話と似てなくない?」
私がそう言って苦笑すると、Y君はため息をつきながら言った。

「そうなんですよ(笑)。そんな状態だから、スタッフの入れ替わりがとにかく早い。
新人スタッフが入ってきても、すぐに別の誰かが辞めちゃうから、
残っている人間は、いつまで経っても楽にならないんですよ」


「完全に悪循環。そんなブラックな店、すぐに辞めちゃえばいいのに」

「そうなんですけど・・・、編プロ時代の悪いクセで、逆境に耐えるというか、
キツイ仕事にも慣れちゃって、結局続けちゃうんですよね、ドM体質ですよ」
そこは“ブラック”風俗店だった・・・!?
「そんなんじゃ、ブラック企業にうってつけの人材じゃん!」
私がそう告げると、Y君は俯きながら言った。

「それは、自分でも分かってるんですけどね。
でも結局その店で1年以上働いちゃいました。その間、昇給や昇格も一切ナシで」


「辛い環境の中で黙って仕事をこなすY君の姿を見て、
評価するどころか、逆に『コイツは給料を上げなくても働くよ』ぐらいに
思われてたんだよ。ひどい店だなぁ」


「でもそのお店、ホントにお客が入ってなかったんで、
給料が上がらないのも仕方ないか・・・、とその頃は思ってたんですが」


これでは、“ブラック風俗店”の思うツボである。
何だか聞いているうちに私の方がイライラしてきた。
そこに救いの神が登場! 大手デリヘルグループへ転職!
こうして、ブラック風俗店の餌食となってしまったY君。
しかし、私がイライラしたところで仕方がない。
気を取り直してその先の話を聞いてみることにした。

「でも、そんな調子でよく店を辞める決断が出来たよね。何か契機があったの?」
するとY君は苦笑いしながら言った。

「えっと、それは自分で決断したというか・・・。
電話が来たんですよ、以前取材で盛り上がった例の店長から」


「おおっ、ここで運命のテレフォン!」

「『またウチの店取材してよ』と、まだ僕が編プロで仕事をしてると思っていた店長は、
お店の取材を依頼する為に電話をしてきたんですけど。
話の流れで、今の自分の境遇を正直に話してみたら、会って話そうということになって」


「それで?」

「そこで、今の給料や勤務時間、待遇なんかを話したら、
『そんな店は今すぐ辞めて、ウチのグループに来いよ』と言ってくれて」


「そりゃあ心強い。やっぱり最初からその店長の店に行けば良かったんだよ」

「そんな後押しの声もあって、やっとその店を辞める決心が出来たんですよ。
だから決断したのは僕というよりも、その店長と言ってもいいぐらいのもんで。
その人、今は出世して本社グループの幹部になってますけど」
転職したデリヘルグループの給料・待遇は?
こうした“運命の出会い”もあって、Y君は何とかブラック風俗店から脱出し、
大手デリヘルグループへの転職を果たした。

「新しいお店に移って、給料や待遇なんかはどれくらい変わったの?」
するとY君は、転職時に示された給料を始めとする募集条件について、
以下のように説明してくれた。

給料:月給30万円スタート。プラス売上に応じて歩合給あり。
勤務時間:1日12時間のシフト制(残業なし)※休憩3時間
休日:週休2日制
※社会保険(雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金保険)完備
※昇給・昇格随時


「おおっ、これはブラック店とは比べものにならないぐらいの高待遇じゃん!
で、実際に働いてみて、その条件はちゃんと守られた?」


「ええ、前の店とは違って、求人内容に嘘はありませんでした。
入店して半年で役職が付いて給料アップ、
3年たった今では、店の“幹部候補”に昇格して、月給は50万円以上貰ってます」


「それは大出世じゃん!回り道もしたけど、結果的には大成功の転職だったね」

Y君とはこの後、転職の話もそこそこに、朝まで編プロ時代の思い出話で盛り上がった。

辛かった時代も、時が経てば笑い話になるものだ。
が、それも今の仕事が充実しているから出来ることだろう。
この日のように朝まで飲めるのも、週休二日制の恩恵である。

もちろん大手グループのすべてが高待遇なわけではないだろうし、
小規模店舗でも働き甲斐のあるお店は多いと思う。
いずれにせよ、同じ仕事をするのであれば、
少しでも条件や待遇のいい店で働く方がいいに決まっている。
私のように、才能の乏しい凡人達の武器は“時間”しかないのだから・・・。

Y君の場合は“運命の出会い”があって、その転職ストーリーが好転したわけだが、
誰にもそんな幸運が訪れるとは限らない。
幸い、今は男性向け高収入サイトに、数多の求人募集が掲載されている時代である。
そこには、多くのお店の求人要項が詳細に記載されている。
そこで情報収集をして吟味し、面接では納得いくまで条件を確認する。
そんな風にしっかりお店選びをした方がいいだろう。

「今日は僕が払いますよ。久々の再会ということで・・・」
『お!ラッキー』と思っているのを気取られないようにしている私をよそに、
Y君は当然のように財布を出すと、マスターに声を掛けた。

そして帰り際に私の肩に手を置いて言った。
「今度ウチのお店、取材して下さいよ(笑)」

なかなか抜け目のない男である。
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