仕事情報誌ドカント

角田信朗 角田信朗
 K-1ファイター引退後もCM、バラエティなどで活躍中の角田氏。マイクを握らせればプロ並みの歌を披露、演技力もNHK連続テレビ小説に出演と、確かのもの。さらには英語の著書もアリと、どこを取っても非がないように見えるが、幼少期はいじめられっ子だったという過去を持つ。屈辱の時代を経て、強い男となった永遠のファイターが語る人生の指標とは?

INTERVIEW /イナズマ☆K PHOTO/谷口達郎

---まずは角田さんが空手を始めたきっかけから お話を伺いたいと思います。
引っ込み思案で人の輪の中に入っていけない子供だったんですよ。それで僕がいじめられて帰ってきたときに、うちの父親は『くやしかったら強くなれや』って一言、背中を向けたままで。

今どきは、子供がいじめられて帰ってくると、自分の子供のことを棚に上げて、親が乗り出してっていうのが多いと思うんですけど。

---その言葉を聞いてどう思いましたか。
俺はウジウジしてる限り一生こういう屈辱を味わうのか、男だったら強く生きていかなきゃって思ったんです。小学校4年の時です。そこへ僕らの世代はマンガで『空手バカ一代』とか、ブルース・リーがあった。

たかが映画、マンガの世界だって笑う人も多いけれど、でも人生ここまで影響を受けたとすれば、立派な指標ですよね。素直に『空手バカ一代』を読んで、登場人物が実在の人物だということは、仮面ライダーやウルトラマンにはなれなくても、この人たちみたいなヒーローにはなれるかもしれない。

確信は何一つないけど、なれるかもと勝手に信じて。それで、空手を始めたんです。

---体を鍛えると気持ちの強さもついてきますね。
今まで引っ込み思案で自信がなくて、体も細かった自分が、空手にとりつかれるように練習していくと、体つきが変わってくる。

そうすると今まで無視していた周りが自分に注目する。注目されるからもっと自分をアピールしようとする、と変わってきたと思うんです。

---コンプレックスを克服したら、未知のパワーを生んでしまったということでしょうね。
それに、いじめられたことを相手だけのせいにしないのは大切ですよ。もちろんいじめる奴が一番悪いんだけど、やられる側も理由を考えないと。 いじめられるほうが意識を変えていくことで、問題を変えていけるかもわからない。

---確かに、仕事でもどんなことでも自分を変えていこう という意識は大事ですよね。
今だにそうなんですけどね。景気、会社、上司のせいとか、みんな周りの責任にしたがるけど、僕は誰のせいにもするな、何かおかしなことがあったら、それは自分が解決する、相手に変わってもらうことを要求したり期待しちゃいけない、自分が変えていくと思ってる。 でも、変わるということは優柔不断になることではない。時代のスピードがこれだけ早いと、朝決まったものが夜にはくつがえってることなんて多いでしょ。 僕がいった自分が変わっていくというのは、あくまで自分の座標軸は変わらないけれども、この中で縦横無尽に、臨機応変に対応していくことが大切だと思いますけどね。

---とはいいつつも、人間は弱い生き物で、いろんな言い訳をしてしまいますよね。角田さんが様々な誘惑にも負けず、空手を続けていけたのは、何がそうさせていたんでしょう。
格闘技ってそういうものに打ち勝ちやすいでしょ。弱い自分より強い自分の方がいいとみんなわかってる。でも、それをどうしたら打ち勝っていけるかという方法をなかなか見出せなくて、宗教にすがる人もいれば、そういう人間の弱い心を悪用する商売をする人もいる。格闘技って非常にわかりやすい。

勝ちたかったらもっと練習する、歯を食いしばる、立ちあがる、継続は力なりって誰でもわかってるんだよ。でも続かないんだよね(笑)。じゃあどうしたら続けていけるか。

それは、楽しければ続けていけると。自分の好きなことは苦労だと思わない、って逆説的になっていくじゃないですか。そういう部分で僕らは弱さを克服していくんです。

---苦労が楽しいことへの通過儀礼ってことですね。例えば試合に挑むときでも、同じような精神状態があったと思いますが。
例えば、武蔵との海外での引退試合で、何回も倒れて、今までの僕なら『もういいやん、急に決まった引退試合で、日本チャンピオンとこれだけやってるんだから、それだけでもういいやん、名前も傷つかへんよ』ってささやく自分がいるわけですよ。 でも、その一方で『たとえ武蔵が相手でも、1%でも勝つ可能性があるなら、俺はやるべきだ』と思ったんです。

---負けてもいいという誘惑に打ち勝ったのは、どういう心境の変化があったんでしょうか。
たとえわずかな可能性でも勝つために、あのしんどかった練習をしてきたんだという気持ちが浮かんでくるんですよ。だから、武蔵に負けることよりも、楽な方へ問いかける自分に負けることがイヤなんです。格闘技の世界って、リングに寝てしまったら楽なんですよ。立ち上がったらまたやられる、一回倒れたら10カウント聞いてしまった方が楽なんです。でも自分の意志で10カウント聞くというのは、己に対して負けを認めること。それはイヤやから立つと。

---でもそうは簡単にはいきませんよね。
やっぱ実際は立てないと思いますよ。じゃあ、なぜ立てるのっていわれたら、練習とか準備の段階が重要なんです。日常生活の中でも、後回しにしたいこと、見て見ぬフリをしたいことっていっぱいある。朝起きるときから、あと5分、10分寝ていたいって誘惑が山ほど転がってる。

そういうものにワザと自分から向かっていくと。精神を鍛える稽古をしてると、人間って苦しいときにも立ち上がれるんですよ。それがわかった。妥協してる奴は、試合になったら頑張りますからっていう。

そんなことをいったって、人間、無意識の中の意識に逃げるんですよ。無意識の中の意識行動を、常にプラスにもっていくためには、常に逃げないようにしなきゃ。

---無意識でも苦手に立ち向かう自分を作れば、困難に対面したときに自然と乗り切れる。
そういう練習をやってると自然に身についてくる。無意識のうちに立ってるんですよね。10カウント入ってから立ち上がって『まだできるのに、レフェリーが止めたんだ』ってアピールをする奴は、普段妥協してる奴なんですよ。

だから若い人たちが仕事をするときも、普段の生活で自分が妥協してれば、最終的に判断を迫られたときに、結果として妥協した結論を無意識のうちに出してしまうんだよと。 だから、悔いのないやり方としていえることは、何事にも妥協せずに、アホなことにも徹底してやってみよう、壁に当たるまでやってみるんです。


---まずはやってみて、壁を破っていくと。
僕、島田紳助さんを尊敬してるんですけど、紳助さんにいろいろ教えてもらったことがあって。その中で大好きなのが、『人の話をよく聞く人間はなかなか出発できない。 人の話を聞かない人間はすぐ壁に当たる、でもとりあえず壁までいかなければ』って言葉。だから、他人の話をよく聞くことも大事だけど、とりあえずチャレンジしていくことも大事だなと。

壁に当たってもがき苦しんで、そこで人の話を聞いて次のステップに上がっても遅くない。

---周りのアドバイスを聞くのは重要ですね。
でも、100人に相談したら100人の答えが出てくるわけで、そんなことしてたらいつまでたっても決まらない。そこで判断基準になるのが自分のやりたいことだと思うんです。

でも、好きなことを仕事にしたいって思ってるうちは、なかなか職に就けないと思いますよ。

---それはなかなか天職が見つからないというフリーターたちに響く言葉ですね。
若い人たちがやりたい仕事が見つからないとかいうけどね、好きなことでメシ食っていければそんな楽な話はないわけで。

かくいう僕自身も、好きな格闘技を生業としてしまったことで辛い部分もあるし、一方で、思いもかけない仕事が迷い込んだりすることもある。格闘技が元でメディアの仕事もやらせてもらってて。

それは僕が特殊な環境にいるだけで、みんなも頑張ったらこんなふうになれるよとか、きれいごとは一切いいたくないんです。

---格闘とメディアの2本柱を仕事としてますが、職業というものをどうとらえているんでしょう。
必ずしも自分が好きなことを出来るのが職業だとは思わない。仕事というのは自分が生きていくための手段であって、それは苦しいことかもしれない。

だけど困難があるからこそ、自分の好きなことをやっていける。やりたいことを職業にするのではなくて、自分の目標を実現させるために一生懸命頑張って仕事をする。

それに辛さがあってもやりたいことがあるから乗り越えていける。そういう考え方をしないと。やりたいことを職業にしたいなんていってたら、一生みつからへんぞと思うんですけどね。

---生きるために働き、その先に楽しいことが待ってる。 そういう考え方も大事ですね。 では、角田さん自身、若手の指導やサポートをする立場でも ありますが、将来のビジョンというのは。
僕は生涯現役でありたいと思うし、偉そうに先生という座に納まるつもりもぜんぜんないですよ。

ただ、若い人たちが正道会館の看板かかげて、自前の道場をきちんと建てて、借金して頑張って、生徒集めて運営してるの見たときに、俺、なんかいい加減ふらふらしてるなって思うし、僕自身が自分の生き方を模索してる。



---10年前に今の自分を想像できましたか。
こうなるとは思ってなかったですね。30歳のときの自分と今の自分って明らかに違う。 僕の生き方って、よくいえば日々一日一日を真剣勝負で生きるって言い方ができると思うんだけど、悪い言い方をしたら行き当たりばったり(笑)。

---冒険的な生き方ともいえますね。
一日一日のテーマをクリアしながら、ある程度のスパンの物事の計画があったとしても、5年10年先のことはわからない。 だからそれでも今、一日一日を一生懸命生きて、自分の中で蓄えられるものをしっかり蓄える。ここから10年頑張ったら、50歳になったときの自分はどんな風になってるのか、興味がありますよ。

---想像するに、どんな男になってると?
自分の理想とする道場を建てようとするかもしれないし、先生の免許を持ってるから、学校にいることも選択肢の一つとしてあるだろうし。 でも役者として大成したいとか、ハリウッドに行きたいというのはあんまりないんですね。もし、話が来たらそのチャンスをつかむ準備はしておいたほうがいいとは思いますけど。

---ご自身でもこれから先は未知の世界ですね。ではこれから仕事を見つけようとする読者にアドバイスをお願いします。
先程の繰り返しになるんですけど、好きな仕事を見つけたいって確かに理想。でもちょっと自分の中の生き方の優先順位というか、生き方の行動順位っていうのを一回並べ返して見いへん? と。 やりたいことをやるために仕事を頑張るって考えもあるわけで。そうすると嫌な仕事も我慢してできるだろうし。 もちろん見つかったら見つかったに越したことはないんですよ、だけどなかなか答えを見いだせないと思うし、それをかえって言い訳にして現実から目を背けることにもなりかねないだろうし。

---まずは目の前の仕事を精一杯やってみると。
あーだこーだと自分の希望ばかりいわずに、とにかくできることをやってみて、そこで自分がやりたいやりたくないに関わらず、頑張る。それでいろんな能力や考え方、精神的なタフネスさが身についてきたとき、その仕事が好きになるかもしれない。 その仕事から思わぬ人間関係ができてきて思わぬ自分の可能性が開けるかもわからない。少なくとも仕事を離れたときに好きなことができる。いいやんそれで。

---それは角田さん自身が経験してきた上でのアドバイスですね。実際に歩んで来た方がおっしゃった言葉は、リアリティーがあります
僕の経験上、自分で自分のケツを叩いた生き方って結構おもしろいよ。厳しいことを我慢して頑張るからこそ、一杯目のビールがおいしいわけで(笑)。 いっつもビール飲んでたらおいしくないやろって。いつのまにか飲んでることが当たり前になって、最後にアルコールにおぼれていくみたいなね、そういう人生はやめましょうよ。ということかな。
INFORMATION
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『悔しかったらやってみぃ!!』 角田信朗・著
幻冬舎 \1,500(税抜) 発売中

鍛え上げられた肉体にピッチピチのTシャツでお馴染みの、角田信朗氏。これまでの波瀾万丈な半生を綴った書き下ろしの自叙伝が発売中。

少年時代、身体を鍛えるためにバイブルである『空手バカ一代』の練習内容をそのまま実践するなど、面白すぎて、ついつい笑ってしまうエピソードが満載。

たった一度の人生を、自分らしく楽しく生きるためのメッセージが散りばめられた、愛と涙と感動の爆笑半生記だ。

角田信朗公式情報はこちらから
http://www.superagent.co.jp/




PROFILE

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角田信朗(かくだ・のぶあき)

1961年4月11日生まれ。大阪府出身。
幼少の頃から空手に親しみ、17歳で極真会館芦原道場入門。フルコンタクト空手の団体である正道会館の最高師範となる。

03年5月ラスベガスで引退する42歳までの25年間、数々の激闘を展開し、「愛と涙と感動の浪花男」の異名をもつ。
現在、K-1競技統括プロデューサー。

格闘技界の重鎮としての顔以外に、関西外語大学卒業、英語教員免許保持を生かした英語の著書も。

また、俳優、歌手、タレント、文筆家、声優と、多方面で幅広く活躍している。



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