西谷 格さん『ルポ 中国「潜入バイト」日記』の著者で“体を張る”が信条のフリーライターに迫る

中国の寿司屋、パクリ遊園地やホストクラブに体を張って潜入取材!

 6年ほど中国で生活し、ディズニーのキャラクターがパクられた遊園地や床で魚を切る衛生観念がヤバい寿司屋、反日ドラマの撮影現場などにバイトで潜入。その体験を『ルポ 中国「潜入バイト」日記』にまとめた西谷格さん。自著の宣伝用の衣装(写真)を自作して着込むなど、取材以外でも〝体を張る〟ことを信条とするフリーライターに、その来歴と現在の活動を聞いた。

Appleのマークが入ったパクリ製品を「これは梨だから平気」と言い切る

──大学卒業後は、まず地方の新聞社に就職したそうですね。
「デスクワーク以外の仕事がしたくて、いろいろな会社の説明会を聞いていたとき、新聞社の話が面白かったんです。そのとき興味を持ったのは朝日新聞で『週刊朝日』を担当していた人の話だったので、もとから週刊誌に興味があったのかもしれません。ヤクザの事務所で脅された話とか、ペットボトルでイカダを作って川を下った話とか」

──著書の『ルポ 中国「潜入バイト」日記』に通ずる、体当たり取材の話ですね。それで2年でライターになってしまうと。
「寝坊が多いダメ社員で、組織でうまく働けない人間だったんですよ。東京では『週刊ポスト』や『AERA』などに売り込みをして、ライターの仕事を始めましたが、契約満了になったり、次に就職した業界誌でも遅刻を理由に退職させられたりして、また無職になってしまって」

──遅刻癖があるんですね。
「今はかなりマシになりましたね。あと、ダメな自分を受け入れて、午前中のアポは入れないようになりました(笑)」

──それで無職の時期、なぜ中国に行こうと思ったんでしょうか?
「フリーペーパーの編集者募集 勤務地:上海という求人を見つけたんです。思い返せば、大学時代の第二外国語は中国語で、3ヶ月ほど留学経験もあったんですよね。当時は中国が伸び盛りでしたし、『書き手としての専門分野を中国にするのもいいかも』と思ったんです」

──それで現地でフリーになると。
「大半の仕事を追い出されるように辞めてきたので、辞めるとき留意されたのはその会社が初めてでした(笑)その後は週刊誌時代の知り合いから仕事をもらえるようになり、現地で中国のレポート記事を書くようになりました」

──アルバイトでの潜入取材はなぜ始めたんでしょうか。
「当時は、中国の食品加工会社がマクドナルドのチキンナゲットに腐敗肉を混ぜていた事件があって。日本のメディアとは違う切り口の取材をしたいと思い、中国人の衛生観念を調べるために、寿司屋にアルバイトで潜入したんです」

──そしたら手洗い消毒はほとんどしていなかったり、食器を洗うシンクでレタスを洗ってたりしていたんですよね(笑)
「そうでしたね。あと潜入して気づいたのは、衛生概念だけじゃなく、『他者への意識の低さ』が日本人とは違うということ。中国の人は、自分の家族や友達など、身内の人は大事にするんですが、他人の扱いはぞんざいで。他人に料理を提供する飲食店の衛生観念のいい加減さも、そこに理由があるのかなと思いました」

──日本でツアーガイドをしている中国人は、中国から観光に来た中国人観光客を騙したりもするそうですね(笑)
「極端に言えば『他人は搾取の対象』みたいな考え方が彼らにはあるんです。一方で日本人は、誰に対しても分け隔てなく優しすぎると思うようになりましたし、中国人の他者への接し方も、いい悪いではなく文化の違いだなと思いました」

──日本は安い時給で働いている接客業の人も態度がメチャクチャ丁寧ですし、思えばそれも変なことですよね。
「その点、中国は客と店員の関係がすごくフラットで、客が調子に乗ると『お前には売らない』みたいになるんですよ。だからモンスターカスタマーみたいな振る舞いはできないし、店員様の機嫌を損ねないよう気を使いますよね(笑)」

──あと色々なキャラクターをパクった遊園地の潜入取材も面白くて、「七人の小人に著作権はない」って言葉が最高でした(笑)Appleのマークが入った製品を「これは梨だから平気」と言ってたり。
「一休さんのとんちみたいですよね。パクリが大量に横行する中で、『自分達だけ訴えられることはない』と思ってるんでしょうし、違法かどうかや善悪ではなく、自分の利益や害のある・なしで判断するのは、日本人と違うなと思いましたね」

──そんな潜入取材を繰り返した後、日本に戻ってきたのはなぜなんでしょうか。
「潜入取材も含めて、中国でできることは一通り試した感覚があったんですよね。今はまた日本で週刊誌のライターをしつつ、台湾の本を翻訳したり、中国関係の仕事もしています。仕事の半分は中国関係のものにしたいと思っていて、また新しいテーマを見つけたいですね」

──それをまた本にまとめたいと。
「やっぱり書籍は形として残りますし、予想外の人から声をかけてもらうきっかけにもなるんです。先日は大阪のホストクラブ経営者から、『中国のホストクラブて働いた経験をもとに、中国人観光客を呼ぶための助言をもらいたい』と頼まれました(笑)」(2018.7.14)

INFOMATION
『ルポ 中国「潜入バイト」日記』
西谷 格 著
小学館新書 864円

上海の寿司屋、反日ドラマ、パクリ遊園地、ホストクラブ……。ジャーナリストの著者が現地に移住し、6年にわたって様々な「潜入アルバイト」を敢行。日本人の知らない中国人の本質を伝える潜入ルポ。


PROFILE
西谷 格(にしたに・ただす)
81年、神奈川県生まれ。フリーライター。早稲田大学社会科学部卒。
地方新聞の記者を経て、フリーランスとして活動。09年に上海に移住、15年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『中国人は雑巾と布巾の区別ができない』(宝島社新書)、『この手紙、とどけ!: 106歳の日本人教師が88歳の台湾人生徒と再会するまで』(小学館)などがある。

公式Twitter

取材・文/古澤誠一郎