小林勇貴 自伝「実録・不良映画術」も話題!注目を集める新鋭監督の映画に込めた怒りと想い

『孤高の遠吠』は富士宮警察署に重要資料として保管されているらしい

 青春バイオレンス作品『孤高の遠吠』は、静岡県富士宮市で起きた事件がもとになっており、出演している役者も本物の不良。拉致、リンチ、監禁、拷問、抗争、復讐、反逆が、恐るべきリアリティで画面から押し寄せる。『全員死刑』で商業映画に進出し、同作のワールドプレミアでフルチンになったこともニュースになった小林勇貴監督に、その映画作りのルーツとなった少年時代の経験や、映画に込めた怒りについて聞いた。

チンピラを何十人も集めたら、好きになんて撮れないですよ!

──地元の静岡・富士宮市の小学校では「ここは銃撃戦があるから近寄らないで」というプリントが配られていたそうですね。
「実際にはなかったですけど、そんな地図は配られていましたね。中学生の頃からは身の回りでケンカも増えて。すぐ手を上げる人が多い町なんです」

──小さい頃に好きな漫画は『漂流教室』や『殺し屋1』だったそうで。
「おばあちゃんが富士フィルムの社員寮の食堂で働いていて、そこから『寄生獣』『きりひと讃歌』『MONSTER』とかを持ってきてくれたんですよ」

──刺激の強い作品ばかりで(笑)
「そこの社員の趣味なので、俺には選ぶ権利がなかったですけどね。でも、『漂流教室』や『殺し屋1』を学校に持っていったら一躍、人気者になれました」

──ピラニアも飼い始めたら家に友だちが殺到したという逸話にも笑いました。
「すっげえ数の友だちが来たので、命の価値が低い魚を買ってきて食わせてました。そういった経験から、『こういうことをすると人が集まるんだな』という傾向は、子どもなりに分かってきていました」

──後の映画づくりにも影響がありそうな話ですね。映画では『バトルロワイヤル』『仁義なき戦い』『狂い咲きサンダーロード』などを見ていたそうですが、映画を撮ろうと思うようになったのは、デザイン会社に就職した後だそうですね。
「その頃は漫画の描き方とか映画の撮り方とか、何かを作る過程の本を読むのが楽しかったんです。それで映画の撮り方も調べるようになりました」

──実際に映画を作る際、地元の不良を役者に起用したのはなぜですか?
「最初は友だちと撮っていたんですが『なら俺たちを撮ってよ』と不良たちが言ってきて。彼らと一緒に撮ったらいろいろなことができるな……と思ったのがきっかけです。映画の実現度の問題です」

──彼らの中には「修学旅行とかにも出てこなかったから、仲間との一生の思い出になるかもしれない」と思って協力してくれている人もいたそうで。
「基本的にみんな親切で、怖くはないんですよ。不意に仲間内でヒエラルキーの低い人が殴られたりしてて、暴力酔いで気持ち悪くなることはありましたけど。撮影でも『つまらなくなったから』という理由で辞めた人はゼロでしたね」

──ただ、撮影途中に逮捕されている人はいたそうで(笑)。映画『孤高の遠吠』で、少年たちが先輩の不良から高値で原付きを売りつけられる話は、実際に不良たちから聞いたエピソードなんですか?
「近い実話をもとに自分で考えました。その稼ぎ方や脅迫の仕方を話したら『うまい』と褒められました(笑)」

──『全員死刑』では商業映画初挑戦でしたが、プロの役者やスタッフと映画を作るのは不良と作るのとは違いましたか?
「撮り方がシステマチックに整備されて、各工程に名前がついているだけで、やることは基本的に同じでした。あと、『自主映画のほうが好き勝手に撮れる』みたいなイメージがあるかもしれないですけど、実際は逆で。だってチンピラを何十人も集めたら、好きになんて撮れないですよ! 商業映画には『途中で事故ったんで遅れます』なんて言う俳優はいないし、百億倍やりやすいです」

──小林監督の本を読んだり映画を見たりすると、何かへの怒りが映画への原動力になっているように感じました。
「それはありますけど、『見た人が面白く感じるか』が大事なので、考えているのはそこですね。『NIGHT SAFARI』や『孤高の遠吠』『逆徒』『全員死刑』といった作品を撮っているときは、抑圧する人に対する怒りが凄くあったんですけど、撮り終わると怒りは消えていくんですよ。許せるようになるし、愛しさすら覚えるようになってくるんですよね」

──ネットで犯罪自慢をする人よりも、それを袋叩きにしている人のほうがムカつくという話が印象的でした。
「ああ、その怒りは消えないですね」

──不良のリンチや学校のいじめと同じだというのも深く納得しました。
「本当にそうです。ネットのリンチで『あいつは悪者だ』と指摘する人は、それによって自分は善人だという担保を得られるわけですよね。だから悪人に対して感謝をすべきだと思うんですよ」

──確かにそうですね。小林監督の作品は地元の映画館も応援してくれているそうですが、自治体は応援しづらそうですね。
「知らないふりをしたい映画じゃないですかね。ただ、富士宮警察署には、『孤高の遠吠』が重要資料として保管されているとは聞きました(笑)」(2018.6.16)

INFOMATION
『全作小林DVD-BOX』
販売元: アルバトロス
定価9500円(税抜)発売中
小林勇貴の初期衝動を収録したDVD-BOX。実際に起こった事件を元にした青春バイオレンス『孤高の遠吠』をはじめ、『逆徒』『NIGHT SAFARI』『SUPER TANDEM/TOGA』の全4作品を収録。Blu-ray&DVD『全員死刑』、DVD『ヘドローバ』も同時リリース。


PROFILE
小林勇貴(こばやし・ゆうき)
1990年9月30日生まれ、静岡県富士宮市出身。
『Super Tandem』(2014)で第36回PFF入選、『NIGHT SAFARI』(2014)でカナザワ映画祭グランプリ、『孤高の遠吠』(2015)でゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリ。実話ベースの物語に本物の不良を出演させるなど野蛮かつ大胆な作風が話題となり各メディアに取り上げられ、多くの著名人が絶賛。昨年11月に間宮祥太朗主演の『全員死刑』で商業監督デビューを果たし、12月には2作目の商業映画『ヘドローバ』が公開。今最も話題の若手映画監督。

取材・文/古澤誠一郎 撮影/熊代紀章