ある青年のドライバー稼業に迫る。食材トラック・アドトラック編。

ライターはBARにいる。
キャバクラの送迎ドライバーに遭遇。その仕事遍歴は?前編

■ここは都心の繁華街。とある雑居ビルでひっそりと営業するBAR。

あぁ~食った食った、あんな旨い肉を喰ったのは久しぶりだよ…。
雑誌の取材をした縁で仲良くなった、とある風俗店グループの幹部の方に誘われて、この街で最も高級な焼肉店で霜降り肉をご馳走になった。
もちろん、ただ旨い飯を恵んでくれるワケではなく、この街の動きからライバルグループ店の動向に至るまで根掘り葉掘り聞かれることになるのだが…。

しかし、さすがに今日はガッつき過ぎた。久々の霜降り肉に我を忘れてしまった。
時計を見ると午後11時30分。
まだまだ子供の寝る時間だ。
いつものBARへと向かった。

■カウンターで独り、ウーロン茶を啜る若者がいた…。

珍しいことにBARは客で賑わっていた。

「まいど~、奥に一席空いてるよ~」
マスターがこちらに気付き、えびす顔でカウンターの奥を指差した。
腰掛けた席の両隣はどちらも見知らぬ男性客である。
常連客が多いこのBARでは、これもまた珍しい。

マスターに、いつものバーボンをオーダーすると、左隣に座っていた客も声を上げた。
「ウーロン茶もう一杯下さ~い」

マスターが笑いながら応える。
「お客さん、誰かと待ち合わせ?BARに来て一人でウーロン茶飲むってのも珍しいよね」

その口ぶりから察するに、この客はどうやら一見さんなのだろう。
茶髪に派手な柄模様の入ったスウェット姿から20代半ばといったところか…。
しかしそんな子が、どうやってこんな地味な場所にあるBARにたどり着いたのだろう?

「いや、待ち合わせとかじゃなくて、俺、ドライバーやってんっすよ」
「あぁ、だからウーロン茶飲んでたんだ。何?タクシーの運転手さん?その若さで?」

「違いますよ、キャバクラの送迎ドライバーっすよ!」
「あー、キャバクラのお姉ちゃん達を送っていくヤツか?」

「そうっス。そんで店の女の子達のトークで、このお店の名前がチョイチョイ出てきてたから興味があったんすよ」
「そっか、じゃあこれから深夜に仕事ってわけか?」

「そうなんっすよ。俺も飲みたいんすけど、なんせ車の運転なんで…。しかし、なんか女の子がいっぱい集まってるお店を想像してたんすけど…」

■キャバクラ送迎ドライバー。キャバ嬢からBARの名前を聞いて来店…。

「オッサンばっかで悪かったな!」
マスターが大声を上げた。
見渡す限り、今日来ているのはすべて男性客、それもオッサンだ。

すると彼は狼狽えるように首を振った。
「いやいや、スンマセン…。まだキャバ嬢なんかは働いてる時間っすもんね…」

「で、お兄さん、お名前は? どこのキャバクラで送迎ドライバーをしてるの?」
「あ、吉田ショウタって言います。“●●●●”で送迎ドライバーやってます」

マスターから矢継ぎ早の質問が始まる。
気になった一見客には必ず行うこのBARの儀式のようなものだ。

「で、ウチの店の名前を出したのは誰よ?」
「えっ、誰って…」
「ウチの店の名前を話してた、キャバ嬢の名前だよ」
「あ、いや…、俺バイトのドライバーなんで、名前とかは分かんないっす…」
「ふーん、そっか。じゃあどんな感じだった? 顔の特徴とかさ。色白?髪の色は?」
「ええっと、どうだったかな…」
「なんだよ~、ちゃんと思い出せよ~、ほら~」
「…」

この詰問である。
これではあまりにショウタ君が可哀そうだ。
大切な新規客なのに…、だからこのBARは閑古鳥が鳴いてるんだって…。

私は話を変えた。
「まあまあ。ところでキャバクラの送迎ドライバーの仕事はもう長いの?」

ショウタ君はホッとしたように私の方を向いて話し始めた。
「いや、キャバクラのドライバーはまだ初めて半年位っす。でもドライバー稼業はもう5年以上やってます」

ほう。
ということは現在の仕事である、キャバクラの送迎ドライバーのずっと前からショウタ君は“ドライバー”だったワケだ。
ずっとキャバクラの送迎ドライバーだったのか?それとも?

よし、今日の酒のツマミはこのネタにするか。
青年のドライバー稼業について…。

■ショウタ君のドライバー稼業、そのスタートは?

聞くと、彼のは年齢は29歳だという。茶髪のシャレた髪型やファッションは今時っぽいが、どことなく地方都市の元ヤンキーというか、そんな雰囲気が漂っている。

「いやいや、俺“元ヤン”じゃないっすよ!実家も都内っすから!っても埼玉との県境の方っすけど…。
まぁ、ヤンキーではなかったけど勉強は全然ダメで、何とか大学には滑り込んだんっすけど、これがまた埼玉のド田舎にあって…。あまりに退屈過ぎて、1年で中退しちゃいましたよ」

「ドライバー稼業は、どこから始まるの?」
「大学を中退して、しばらくはプラプラしてたんすが、さすがにこりゃマズイかなと…。そこで見つけた求人が、“業務用食材”の配送ドライバーだったんっすよ」

■原点は、業務用食材の配送ドライバーだった。

「それがドライバー稼業の原点だ」
ショウタ君は頷いた。

「そうっすね。もっとも、その時は別にドライバーの仕事に興味があるワケじゃなかったんすよ…。当時、俺は“原チャリ”が移動手段だったんすけど、求人サイトで見つけたその会社が、原チャリで通える場所にあったってことが選んだ理由ですからね…」

そして、業務用食材の配送ドライバーの仕事内容や収入、待遇などについて教えてくれた。

【ドライバー稼業・その①】 業務用食材の配送会社
職種:[正社員]業務用食材のルート配送ドライバー
給料:月給20万円~
仕事内容:ワゴン・バンに業務用食材を積み込み、都内の飲食店に配送する。
勤務時間:7:00~17:00
勤務日・休日:週休2日
資格:要普通免許

「都内の飲食店に配送って、1日に何店ぐらい回るの?」
「だいたい20店ぐらいっすね。回るお店やルートは基本決まってて、それに従って毎日配送するんすよ」

「配送は一人で?」
「そうっすね。一人でワゴンに乗って1店1店回って行くんすよ。研修が終わって一人で動き始めた時は緊張しましたけど、慣れればお気楽なもんでしたね」

「そういう配送の仕事って“営業”みたいなこともするの?注文を取ったり売り込んだりとか?」
「配送会社によっては、配送先で注文を取ったり新商品のPRがあったりするみたいだけど、俺がやってたのは配送だけでしたね。食材を届けて納品書を渡してて終わりっすね」

■“正社員”勤務で収入は安定。それでも仕事を辞めたワケは!?

「その会社ではどれくらい働いたの?」
「3年間働きましたね。仕事してるうちに車の運転が好きになったのと、ぶっちゃけ月々の給料は高くはなかったけど、正社員だったから年2回のボーナスもあって収入が安定してたのも、仕事が長く続いた理由っすね。
ちゃんと“有給休暇”も取れたし、中古だけどマイカーのミニバンも買えたし。今もそれに乗ってるんすよ」

年2回のボーナスに有給休暇…。なんて素晴らしい響きだ。
しがないフリーライター稼業の私からすれば垂涎の待遇ではないか。
しかし何故、そんな安定した仕事を辞めたのだろうか。車まで買えたのに…。

その理由を問うと、彼は「ウーン…」と唸った後に答えた。

「若かったってこともあるんでしょうけど…、毎日一人で同じルートで配送してると、だんだん仕事に飽きて来るんですよね…。そうなると朝の出社時間が早いとか、何かツラい部分ばっかり考えるようになっちゃって…。原チャリ通勤だったから、冬場の早朝なんて寒くて寒くて…。それで結局、嫌気が差して辞めちゃいました」

■ショウタ君のドライバー稼業、次は何の仕事のドライバー?

「業務用食材の配送ドライバーを辞めて、その後は?」
「“アドトラック”のドライバーをやりました」

アドトラック?それって何だっけ?
私が思考を巡らしているのを察して、彼が口を開いた。

「アドトラックってのは、ライブとかコンサートなんかを宣伝するトラックっすよ。ほら、街中を音楽鳴らしながらよく走ってるでしょ」
「ああ、アレか! 高収入女性求人サイトなんかの宣伝をやってる、アレだよね。あのへんな歌をガンガン流す、やかましいヤツ」

私がそう言うと、彼は笑いながら、アドトラック・ドライバーの仕事内容や収入、待遇などについて教えてくれた。

【ドライバー稼業・その②】 アドトラック・運行会社
職種:[アルバイト]アドトラック・ドライバー
給料:日給12,000円~
仕事内容:広告宣伝のためトラック(4トン、2トントラックなど)を繁華街で運行する。
勤務時間:12:00~22:00(うち休憩1時間)
勤務日・休日:週1日から勤務可能
資格:要中型免許

「“中型免許”って、元々持っていた?」
「えぇ、食材の配送ドライバーをしてる時に運転が好きになったんで、次の仕事はトラックの運転手なんかもいいかなぁと思ってたんっすよ。それで仕事を辞めた後、大型免許よりも取得費用が半分くらいで済む中型免許を取ったんっすよね」

「なんで、トラックはトラックでも、アドトラックを選んだの?」
「求人サイトを見てて偶然見つけたアドトラックの仕事が、昼12時始まりだったからっすね!
俺朝弱いんすよ…、だから昼からなら続くかなって…」

「単純に時間帯の問題か…」
「そうそう、バイトだから勤務日の縛りもないし。それにっすね…」

そこで彼は一呼吸おいて、笑いながら言った。
「繁華街を賑やかに走り回るアドトラックって運転するの気持ち良さそうじゃないっすか?
実際、なかなか爽快なんすけどね」

「う~ん、そうなんだ…。それは街宣車を運転する感覚か?というか街宣車に乗ったことないけど…。
街を走ってるアドトラックって、すごいデカいじゃん。あれは大型免許を取得していないと運転できないんじゃないの?」

彼は笑いながら首を振った。
「街を走ってるアドトラックは、デカいやつだと“4トンロング”っていう車種が多いんすけど、アレって“普通免許”でも運転が出来るんっすよ」

「マジで?」
「ただし、平成29年の6月2日以前に普通免許を取得していた場合っすけどね。
それまでに免許を取っていれば“5トン以下”のトラックは運転できるんっすよ。
荷物の最大積載量が3トンっていう制限はあるんすけどね」

ということは、私の持っている普通運転免許でも、あのトラックを運転出来るのである。
「いやいや、あんなドデカいトラっク、運転できないよ・・・」
「まぁ、そうでしょうね。それに平成29年の6月2日以降に免許を取った場合は、3.5トン未満しか運転出来なくて4トンロングはNGなんで、募集はどこも“要中型・大型免許”になってるんすよね」

■宣伝トラックのドライバー、その運転のコツは?

「アドトラックを運転するコツとかある?普通車を運転する時との違いみたいな?」
「アドトラックは、あくまで交差点で信号待ちをしてる人や、通りを歩く人にアピールするのが仕事なんすよ。
だから道が空いてても、ゆっくりゆっくり走らなきゃいけないし、人が多い駅前の交差点付近なんて超~最徐行、信号が黄色になったら即停止みたいな運転なんすよ」

「あー分かる!こっちが急いでる時にソレをやられてムカついたことが何度もあるわ!しかもギャーギャー変な音楽流してるし!」
「スンマセン。だけどこっちはトラックだから、座席が普通の乗用車よりも全然高いじゃないっすか、だから睨まれたりクラクションを鳴らされても、あんまり気にはならないかも…」

「東京から神奈川まで、ずーっと女子求人サイトのアドトラックが前を走っていて、頭がおかしくなるかと思ったわ!」
「確かにアレはヤバイっすね。あっ、それと、コンサートやライブの宣伝トラックを走らせてると、そのミュージシャンのファンが手を振ってくれたりするんすよ。そしたらこっちも手を振り返したりして。そういうのも楽しいっすね。まぁ、俺はそのミュージシャンと何の関係もないんすけど…」

「勤務時間が“12時~22時までの10時間”ということは、繁華街を半日くらいトラックで走るの?」

私がそう問うと「いやいや、そうじゃないっすね」と彼は否定した。

「タイムスケジュールとしては、12時に車庫を出発、14時頃に新宿、渋谷といった都内の繁華街に到着。
そして決められたコースを運行して、20時にコースから撤収、22時に車庫へ帰着って感じっす。
その間に1時間の休憩を取るんで、実質的にコースを運行しているのは5時間ぐらいっすね」

「そうなんだ。でも、車庫を出発して都内繁華街まで2時間もかかるなんて、車庫は一体どこにあるの?」
「ウチの場合、車庫は埼玉県のずーっと奥の方っすね。だから都心に来るまで2時間もかかるんすよ」

■トラックの車庫は都内にはない!?仕事を辞める原因に…。

「えっ、そんな遠いところから来てるの?都内に車庫があったら移動時間も短くて宣伝の効率も良いのに」
「それが“東京ナンバー”のトラックには条例の規制があって、それでアドトラックの多くは近隣の県のナンバーで東京都内に乗り入れてくる形になってるんすよ」

「なるほど、そういった事情があるのか。まあ、都内にトラックを何台も収容できる車庫なんて作ったら、その費用も高額になるか…。埼玉県のずーっと奥の方だと随分コストカット出来るだろうしね」

「そうすね。ただ、それが、俺がアドトラックのドライバーを辞める原因になったんっすけど…」
「えっ、どういうこと?」

彼はため息をつきながら言った。
「その埼玉県のずーっと奥の方にある車庫って、東京と埼玉の県境にあるウチの実家からでも、車で1時間かかるんすよ。俺は車通勤っすけど、朝11時頃に家を出て12時前に車庫へ到着、そこですぐにトラックに乗り換えて夜10時まで運転。そこでマイカーに乗り換えて帰宅は夜11時過ぎ…。
実に12時間のうち休憩の1時間を除いてブッ通しで運転っていう…。そんな仕事を週3~4日、2年ほど続けてたんすけど、ある日…」

「ある日?」
「車庫からの帰り道に居眠り運転をしちゃって…。幸い咄嗟に気付いて事なきを得たんすけど。
その時は3日連続で仕事をしてて、いくら朝が遅いといっても疲れが溜まってたんでしょうね。それから怖くなって、仕事も辞めちゃいました」