デリヘル送迎ドライバーの仕事【夜の仕事人インタビュー】
■デリヘル送迎ドライバー 倉川氏の場合
彼は、待ち合わせ場所の駅前へ白いプリウスに乗ってやって来た。
鋭い眼光に一瞬たじろぐが、物腰のやわらかい静かな雰囲気の男性である。
倉川広美さん、42歳。
知り合いの風俗店の店長に紹介してもらった、ドライバー歴10年以上のベテラン選手。
勿論、ドライバーといってもタクシーやダンプカーの運転手ではない、“デリバリーヘルスの送迎ドライバー”である。
都内出身。地元の公立高校を卒業後、“2コ上”の先輩が経営する内装業を手伝う。
その後10年ほどは内装業の景気も良かったが、徐々に仕事は減り作業単価も下がり続ける。
社長の先輩は借金が嵩み会社をたたんで地元から姿を消してしまった。倉川さんは、現在も別の会社で内装工の仕事を続けている。
しかし、月に仕事が10日程度、なんてことも珍しくないという。
内装工での収入は月に12~15万円程度にまで落ち込んでいる。一人身である故、生活費としては自分の食い扶持があればこと足りるのだが、大きな借金もない代わりに1円の貯金もない人生……。
ボンヤリと先々の生活に思いを馳せると不安ばかりが募っていった。■ドライバーを始めたきっかけは、フィリピンパブ。
- 内装業の仕事が不調になり始めた32歳の頃、倉川さんは夜の空いた時間に友人の経営する居酒屋でアルバイトをしていた。
「内装の仕事は夜6時には終わるし、あとはパチンコに行くぐらいだからさ、小遣い稼ぎをしてたんだよね」
その居酒屋に客で来ていたフィリピンパブの店長さんから声をかけられた。
「お店で働く女の子の送り届けをして欲しい」と……。倉川さんは、内装業でも運転手を買って出るほどの運転好きで自家用車も持っている(仕事の都合上7人乗りのミニバンに乗っていた)。
しかもお酒も飲まない。断る理由は一つもなかった。
──そこからドライバー稼業がスタートしたのですか?「そう。深夜とか明け方にクラブのお姉ちゃん3、4人を家まで送ってくだけ。 夜12時過ぎあたりに店から『今日送りお願い』って連絡が入ったら、深夜2時頃に車を店に着ける。 それから家が近い順番で女の子を送ってくだけ」
──それでいくら貰えるんですか?
「“1万円の副収入”だよ。 “チップ”もあったし良い時代だったね」
それに味を占めた倉川さん。
他のスナックやキャバクラにも声をかけ、お店の女性を送迎するアルバイトを増やしていった。「朝5時まで営業してる店も多かったし、1日3往復とかしてた日もあったね。 女の子もベロベロに酔ってるからさ…… 大きな声じゃ言えないけど“イイ思い”もできたしね(笑)」
■ドライバー仲間からデリヘルの仕事を教えてもらう。
- 「飲み屋のお姉ちゃんの送迎バイトはありがたいけど、“不安定”なんだよね。 毎日コンスタントに仕事があるわけではないからね…… 送迎が必要な女の子が1人や2人だったら店からするとタクシー代のほうが安いから俺に送迎の依頼がないわけよ」
──稼ぎが安定しないんですね。
「その頃、同業のドライバー仲間から『デリドラやったほうがいいよ』って教えてもらったんだよ」
“デリドラ”とは、“デリバリーヘルスの送迎ドライバー”のことである。
出張形態の風俗店、デリバリーヘルスで働く女性を、お店の待機場所からホテルやお客さんの自宅などへ送迎し、深夜や早朝に女性を家まで送り届ける仕事である。
「紹介してくれた奴は本業でデリドラをやっていて、暇なときに飲み屋のお姉ちゃんの送迎ドライバーをやる感じで結構儲かってたみたいで…… 飲み屋の送りは1日1回だけでしょ。でもデリヘルは24時間何度も仕事があるわけじゃん。 速攻でネット検索して条件が良さそうな店に電話したよ」
──風俗店のドライバーって抵抗感とかはなかったですか?
「ないない。金さえ払ってくれればキャバクラでも風俗でも全然OK。 けどデリヘルとか詳しく知らなかったからさ、店に面接希望の電話をしても、『●●駅北口の改札出てから電話して』とか、店の場所を全然教えてくれないから、“やっぱり怪しいなぁ~”と思ったよね(笑)」
──風俗店ならではの防犯対策(笑)
「そう。『面接と偽って事務所を突き止めて悪さする奴らがいる』って聞いたのはあとからの話で……」
──風俗店、デリヘルの印象は?
「初めて風俗店、デリヘルの事務所に行ったときは結構拍子抜けしたね、今でも覚えてるよ。 怖いお兄さんたちがオラオラしてんじゃないかと勝手に想像してたけど、ネクタイ締めた会社員っぽい人たちが静かにパソコンに向かってるだけでさ…… なんか普通の会社みたいな雰囲気で、俺の“風俗”ってイメージと全然かけ離れてた」
■デリヘルドライバーの面接内容
──面接では何を聞かれるんですか?
「まぁデリヘルドライバーの面接なんて、喫茶店とか車のなかですぐ終了して『ハイ即仕事』みたいな店も多いよ」
──いきなり仕事?
「そうそう、ドライバー未経験の奴はそうはいかないけどさ。 面接で聞かれる事なんて『デリヘルドライバーの経験は?』『車種は?』『働ける日数は?』『道に詳しい?』程度だし」
──車種にも決まりがあるんですか?
「軽自動車とか2ドア車は嫌がられる店もあるよ。マーチとかフィットとかがギリギリかも…… 俺はこのプリウスだよ」
──未経験の人でもデリヘルドライバーのアルバイトは可能ですか?
「初心者は、研修として先輩ドライバーやデリヘルの社員を助手席に乗せて初日の仕事をするパターンもある。 まぁよっぽどの事がなければ合格するし未経験でも全然OK」
──お給料はどのような感じですか?
「俺が初めて働いたときの条件は、最初の1ヵ月は時給900円、その後は時給1,100円だった。 夜7時から翌2時までの7時間勤務で週3日とか。 ガソリン代は1キロ10円だったかな……」
──その時給は高いほうなんですか?
「全然良くない。1日7,000円弱、週20,000円程度だからね。 俺も相場がわからなかったから働いたけど今だったら絶対働かない」
■デリヘルドライバーの仕事の流れ
──1日の仕事の流れはどのような感じなんしょう?
「出勤日、事務所の下に到着したら店に連絡を入れる。 仕事が入ったら女の子を車に乗せてお客のところへ送る。 ホテルや自宅に着いて女の子が仕事に入ったら、“その場で待機”か、“他の女の子の迎え”か…… 店へ連絡して指示を仰ぐ。 “その場で90分待機”とかの場合は休める。 あとは女の子の自宅への送迎もあるって感じ」
──待機時間は何をしていてもよいのですか?
「店から連絡が着いてすぐに車を動かせれば何をしていてもOKだね。 つっても待機時間も仕事中だから寝入っちゃったらダメだけど。 ラブホテル街で車のダッシュボードに足を乗っけて寝てる奴いるじゃん? あれがデリヘルドライバーだから(笑)」
──よく見る光景ですね(笑)。YouTube見てたり……
「『ヤバイ客とか女の子の緊急時にすぐ駆けつけてください』なんて言ってくる店もある。 でも正直、時給1,000円そこらじゃできねえって(笑)。 “危険手当”出してくれって話だよね、ボディガードじゃないんだから」
──そういった流れで1日に何本も送迎をすると?
「そう。そんで勤務終了したら事務所に行って給料をもらう。もちろん“全額日払い”。 ドライバーの給料を日払いで支払わないような店は辞めたほうがいいよ」
──待遇面はどのような感じですか?
「待遇も何も単なるバイトだからね、社会保険や福利厚生なんてあるわけないし。 風俗店の社員とドライバーを兼任しているような店の場合は、福利厚生がしっかりしているとこもあるんじゃないかね」
──デリヘルドライバーの仕事、メリットは?
「日払い!とにかく日銭になること、以上! 日給15,000円を取っ払いでもらうことだね。 あとはまぁ、簡単にできて時間的にも融通が利くところ。 年齢や経歴とかはまったく関係ないところ…… 俺みたいな中年オヤジの副業としてはピッタリだと思うよ」
■現在のドライバー収入『日給1万5千円』の取っ払い!
- ──日給15,000円の収入は良いですね。
「そうだね、店によって給料も待遇も全然違うから、いろいろと情報を仕入れないと馬鹿を見るよ。 俺はガソリン代は込みでもいいから、1日15,000円は稼ごうと思ってる。 10時間で15,000円が目安」
──10時間といってもチョイチョイ休憩できるし。
「そして俺は時給制の店は避けてる。“日給制”でやることにしてる。 たとえば“時給1,500円”でも暇な店は時給を下げてきたり“早上がり”させたりするから。 やっぱり自分の車を使って仕事してるんだから、維持費だってかかるし事故や違反なんかの危険性もあるんだからさ。15,000円は貰わないとね」
──たしかに、事故に遭う可能性もある。
「もちろん事故っても風俗店は責任取ってくれないよ。 俺らドライバーはフリーで仕事してるようなもんだから、金にはシビアじゃないと! だから『暇だから給料減額』なんて言う店は即辞めるよ、他に店はいっぱいあるし」
■デリヘルドライバー、最重要任務とは?
- ──結構、強気ですね?
「とはいえ、俺も陰ながら努力はしてるんだよ。ドライバーの仕事で一番大切なのは“時間に正確”で“スピーディー”かつ“安全な運転”でしょ。 お客さんのとこへ到着時間が遅れちゃって、仕事がキャンセルになっちゃったら最悪だからね。店からの信頼もなくすわけよ」
──死活問題ですね。
「1つの仕事が入ったら、即“渋滞情報”をチェックして到着時間を想定するとか。 仮に渋滞で遅れそうな場合には、前もってお店のスタッフに“どの位遅刻しそうか”を正確に報告するとかね」
──最低限そのくらいできてないといけないと・・・。
「1日に100キロ前後は車を走らせるから、車のメンテナンスにも気を使ったりとかね。 もちろん女の子を乗せるから車内にも気を配らないといけない。 別に車内を飾り立てる必要はないけど、とにかく清潔にすること。ホコリまみれになっていないか、臭くないかとか、車だけじゃなくて“自分”もね。車って臭いがこもるからさ」
■働く女性(風俗嬢)への配慮も大切
──やっぱり働く女性への“気配り”が大切になってくる。「そう。服装だってドライバーはジャージでも短パンでも別に構わないんだけど、一応ヨレた格好じゃなくって“清潔感”がある格好をするとかね」
──女の子から嫌われたら大変ですからね。
「女の子との“距離感”にも注意が必要。敬語だよ敬語、いや、丁寧語か? 挨拶はきちんとするけど必要以上には会話をしない。無駄口はきかない。 むしろ、よく話しかけてくる女の子には警戒心すら抱くよ(笑)。『女の子と仲良くなれるでしょ?』なんて思ってる奴は絶対だめ、続かない」
──ドライバーに徹しろと。
「やっぱりきちんと稼ぐためには、店から信頼されることが第一。 店から『このドライバーは使える』と思われること。 だから店から誤解されるようなことは絶対にしない。 店からしたってドライバーなんて替わりはいくらでもいるんだからさ。 また店から評価をされないと、収入も増えないからね。 店的には、時間に正確で女の子からのクレームもない“使える”ドライバーなら、1日15,000円払っても全然問題ないんだよね」
──なるほど。
「逆に、仕事に遅刻したり、女の子と無駄口きいてるような奴には、5,000円でも払いたくないって感じじゃないかね。風俗店も色んなドライバーを使ってるから、“遊び”でやってる奴なんてスグわかるからね」
■お店のスタッフとの連携も重要。
──お店のスタッフからの信頼が高収入への近道であると・・・。
「ドライバーを“まわす”(管理する)店のスタッフとの相性もあるよね。 指示が的確なスタッフと仕事しているとメチャメチャ楽しいよ。 俺も10年くらいで30店以上のデリヘル店で送迎をやったけど、ドライバーのことを考えられるスタッフは出世してるよね」
──ドライバーの事を“考えられる”とは?
「そりゃあもう、“無茶を言わない人”(笑)。 俺らドライバーをうまく“まわせる”ってことは、女の子とお客さんも上手に“まわしてる”(応対してる)ってことだからさ」
──人使いが上手であると。
「俺もこの仕事が長いから、出世して店長になったり独立して店を立ちあげた人から、直接声がかかったりもするんだよね。『新店出したからドライバー頼む』とかってさ」
──逆に“こんなお店はダメだ”みたいな例は?
「求人募集に“時給1,000円”って出していて、勤務時間は“19時~翌7時まで”の12時間。かといって“12時間”の時給制ではない。“送迎をした時間での給料”っていう条件の店があった」
──送迎をした時間分だけ時給を払うってこと?
「そう、仕事が入って自宅を出た時間から女の子を拾って客先に届け、また女の子を乗せて店に戻る。 それが1回の仕事で、この時間に対する時給なんだよ…… ってことは、12時間待機して1回の仕事、2,000円位で終わる日もあるっていう話。こんなのやる奴いないよ(笑)」
──まだ時間いっぱい仕事があったらよいですけど。
「でもあまりに忙しいのも考えものだね。 今ではデリヘルドライバー専門の会社もあって、厳しい会社だとドライバーが皆“GPS”で管理されていて、1時間に3、4人の送迎をさせられる。休みなしでこれはキツイよ。 逆に“ゆるい店”も心配になっちゃうね。お客とドライバーに直接やり取りさせたりさ。『遅れそうだったらお客さんに電話してください』ってドライバーに言ってくる店とか。『個人情報とか大丈夫かよ?』って……」
■お店の売上“現金”を扱うこともある。
──お店の売上(現金)を預かる仕事もあるとか……「店によっては、ドライバーが女の子よりも“先に”お客の部屋へ行って、お金を貰ってくるパターンがある。 俺はその仕事は極力やらないけどね。余計なトラブルになりかねないから」
──余計なトラブル?
「あまり言ったらダメだけど……“チェンジ”とかでトラブルが起きたりね…… それとは別に、女の子がお客から貰ったお金を預かって店に持って行く場合もある。 だから釣り銭なんかも一応用意はしているよ。その辺の気遣いも大切だね、お互い気持ちよく働きたいからさ」
──“デリドラ”で稼ぐコツは?
「デリヘル店にとってドライバーは“陰”の存在だから、目立たぬように仕事をこなすことだね。 店や女の子には当然だけど、お客にもストレスを感じさせないで“空気のように”仕事をこなすことだね。 それにはやっぱり“経験”が必要。まずは興味があったら取りあえず働いてみることだよ」
『1日15,000円は稼ぐ!』
『ドライバーはフリーみたいなモンだから、ダメな店は即辞める!』
などなど、一見強気でシビアな発言も多かった倉川さん。しかしながら、副業で“キッチリ”とお金を稼ごうとする人は、このくらい現実的な考えを持っていないと自分の想定した現金を手に入れるのは難しいのではないのか……とも感じた。
最近では、大手の風俗グループ店などは、自社で社員ドライバーを雇用しているケースも多いという。倉川さん曰く。
「店からしたら、“月給25万円”で、好きなように使えるドライバーを雇えるなら安いモンなんだよ。時給にしたら1,000円程度だしね。 俺はあくまで“副業”のドライバー、“フリー”のドライバーだからさ、そういった社員ドライバーとも戦っていかなきゃならないんだよ。運転技術だったり、気遣いだったりさ…… デリヘルドライバーの技術で『1日2本~3本(2人~3人の客)の差が出る』って言われてるからね」やはり稼げる人は職業意識が高いのである。