【夜の仕事人インタビュー】キャバクラ・ボーイの仕事
■曽根隆也氏(仮名・26歳)の場合
今回、取材に応じてくれたのは、池袋のキャバクラでマネージャー職についている青年、曽根隆也氏(仮名・26歳)。
日焼けした顔肌に整えられたアゴヒゲ、カールした長めの髪から覗く耳には輝くピアス。そしてジャケットからルーズなパンツに至るまで全身黒ずくめでキメている。
お兄系?というのだろうか、ソッチ系のファッション誌から飛び出てきたような若者……それが彼の第一印象であった。「今日はよろしくお願いします」
小洒落た黒ベースの名刺を差し出しながら、意外にも明るく大きな声で挨拶をされた。
■キャバ嬢の彼女から聞いた生々しい話がきっかけ
- 曽根さんは、都内の私立大学を卒業後、企業や店舗の求人広告を扱う広告代理店に営業職として入社した。
しかし、連日テレアポをかけまくる日々に嫌気がさし一年を待たずに退職する。
そこからキャバクラに転職したというが、一体どのような経緯をたどったのだろうか?
まずはそれを問うてみると、曽根さんは苦笑いしながら頭を掻く。「広告代理店で働いてたときに付き合ってた彼女がキャバクラで働いてたんですけど……」
──彼女に『一緒にキャバクラで働こう』って誘われたとか?
「いや全然違くて、彼女から聞くキャバクラの話しがいちいちおもしろいんですよ。『一晩で200万円使った客がいた』とか『枕営業しているババアがうざい』とか『マネージャーが店の女に”手を付けてる”』とか(笑)」──マネージャーがお店の女の子と男女の関係とか、いきなり生々しい話ですね。
「その店は朝3時頃まで営業していて、ラストまで働いた女の子たちは店から支給される“送り代”(タクシー代)を節約するために、始発電車まで”店泊”(お店に泊まる)する子が多かったんですよ。 たまたま彼女が店泊したときに、奥の席で隠れるようにマネージャーと女の子が寄り添ってるのを見かけたらしくて……それとなく観察してたら、マネージャーがキスしながら女の子の体を触り始めて終いにはスカートのなかに手を忍ばせたって(笑)」──キャバクラって“風紀”(店内での男女関係)は厳禁ですよね?
「そうですね、しかも店内ですから(笑) 彼女もさすがに気持ち悪がってましたね。『どうりでその女は“エコヒイキ”されてると思った』とか言って」──そりゃお店が大変なことになりますね。
「で、自分は彼女の話を聞いて思ったんですよ。キャバクラってメチャクチャなノリで面白そうだな……って」──えっ?それが転職の理由ですか?
「そうなんですよ、大マジで(笑)可愛い女の子たちと一緒にワチャワチャ働けるなんて最高じゃんって真剣に思ってました。一年くらいアルバイトしても楽しそうだなって……彼女に聞いたら時給も結構良かったんで……」──若いって素晴らしいなぁ(遠い目)
「まあ現実は、ウチのお店も風紀がバレたら“罰金50万円”だし、今思うと我ながらアホだと思いますけど。その頃は営業の仕事に嫌気が差してたんで、サクッと転職しました」 ■キャバクラ業界への転職を決意するも、全部不採用
- “可愛いキャバ嬢と楽しく働けるから”軽い気持ちでキャバクラ業界への転職を決意した曽根さんであったが、採用へのハードルは意外に高かったという。
「キャバクラサイトや男性向けの高収入求人サイトを見ながら、歌舞伎町の高級店とか都内に系列店を持ってる大手グループをピックアップして面接を受けたんですけど、全部不採用でした」
──この人材不足のご時世、若い男性は“引く手あまた”じゃないんですか?
「見た目がダメ、ロン毛にヒゲピアスが(笑) 自分はキャバクラ業界をナメてたんですよ。水商売なんてチャラくても全然OKだろうと……でも実際は大違いで『髪切ってヒゲ剃ったらまた来てね』って感じでまったく相手にされませんでした」──で、どうされたんですか?髪切ってヒゲ剃って面接に?
「いやいや、その頃はまだキャバ嬢とヤル気満々だったんで、容姿は重要ですからそのままです」──そっちにヤル気満々(笑) でも採用されないと始まらないですよね。
「そうなんです、だから今度は高級店やグループ店にこだわらずに、求人サイトを細かくチェックして見つけたんですよ。“髪型自由”そして”ヒゲ・ピアスOK”って求人を出してるお店を」──それは、高級店や大手グループは、面接の際に“身だしなみ”や“品性”などチェックされるけど、中小規模のお店はもう少し”ゆるい”というか、そこまで規律が厳しくないと?
「そんな感じです。自分が採用されたお店(今働いてるお店)で、求められたのは“ヤル気”だけでしたから。もちろん“仕事の”ヤル気ですよ(笑) 第一、面接官がヒゲピアスでしたから」──それで無事キャバクラ業界に滑り込めたと。正社員として入社されたのですか?
「いや、お店の雰囲気もキャバクラの仕事もどんな内容なのかよくわからなかったのでアルバイトから始めました。キャバ嬢の“体験入店” と一緒で、“日給1万円を日払い”でボーイにも“体験入店”が可能なお店は多いんですよ」 ■いよいよキャバクラボーイのアルバイトをスタート
- こうしてキャバクラで働き始めた曽根さんだったが、すぐに厳しい現実を思い知らされたという。
「勤務初日にいきなり上司から”風紀は厳禁”、もし風紀違反が発覚したら“罰金50万円”って雇用規約を見せられたんですよ。もう目の前が真っ暗になりましたね」
──またその話(笑)
「転職の最大のモチベーションが初日で完全に崩れちゃって……アルバイトで良かった、すぐに飛ぼうってマジで思いました」──そこを乗り越えて今も働いてる理由は?
「お店の感じも超良かったし、せっかく採用されたんで少しは様子を見てみようと……体力的にはきつかったけど慣れてきたら、営業の仕事よりも精神的には全然“楽”だなぁって思えるようになりましたね」──精神的に楽?どういうことでしょう?
「前職の営業でやってた仕事は、見ず知らずの会社にいきなり電話をかけて営業するんです。そしてほとんどの人から邪険にされるんで、結構へこむんですよ。でもキャバクラに来るお客さんは、ウチを選んで来てくれるんで接客もやりやすいし気持ち的に全然“楽”なんです」──お店に遊びに来てる時点で、もうお客様の導入部分は終わってますからね。
「そうなんですよ、拒否られないって大切ですよ(笑)」──法律的にはNGですけど“客引き”をやってるキャバクラも多いですよね?
「ウチは客引きやキャッチはやっていません。もしやらされたら即辞めます(笑) よく街で『客引きキャッチは犯罪行為です』みたいなアナウンスが流れてますけど、自分は浄化作戦の大賛成派っすよ」 ■時給制アルバイトから、月給30万円の正社員へ
- ボーイになればキャバ嬢とムフフ……淡い期待を一瞬にして打ち砕かれても仕事を続けた曽根さん。
その後はどのようなキャリアを歩んだのだろうか。「アルバイトで半年ほど働いて正社員になりました。それまでは週4日勤務のシフトでしたが、正社員になるとお店の定休日以外は出勤になるので週6日勤務になります。大変だけど給料もドカンとあがります」
──正社員になるとお給料は?
「アルバイトのときは時給1,300円で、1日9時間、週4日勤務で月給20万円くらい。正社員になると月給30万円になりました」──半年で10万円の給料アップですか。今は”マネージャー職”ですよね?正社員からマネージャーになるにはどのくらいの期間がかかりましたか?
「まず正社員になってから、半年位で“主任”になって、そこから1年半くらいで”マネージャー”になったから、入社して約2年半です」──2年半でマネージャー職ってスピード出世ですね?
「いやいや、キャバクラ業界だと全然普通です。人材が豊富な大手グループさんだともっと時間はかかると思いますけど」──そうなんですね、お給料はどのくらい昇給したんですか?
「主任になったときは月給33万円、マネージャーになって月給38万円です」──月給38万円は、20代では高給取りですよね?
「主任から担当の女の子を付けてもらうので、あくまでも月給は基本給で、女の子の売上の20%の歩合給が付きます。だから月によって変わりますけど、今はだいたい月収50万円は超えてます」──そんなに稼いでるんですか。
「ウチの店長なんて30半ばで年収2千万円超えてますよ」──でも、それだけの給料を貰えるってことは、昇格するにつれて仕事はどんどん大変になるんですか?ボーイさんの仕事内容を教えてください。
「ボーイの仕事は簡単です。掃除などの開店作業、営業中はホールでお客様の案内やウェイター業務、そして閉店作業。そんなところがメインの仕事になります。体力があれば乗り越えられます。昇格すると雑用的な仕事は少なくなって、新人ボーイの管理や女の子のマネジメントが入ってきます。その先は女の子やスタッフの面接、それにお店の経営に関する仕事もありますが、そこは自分よりもっと上席の管理職の仕事になります」 ■昼の仕事とナイトワークの違いは?
- ──広告代理店の営業という“昼職”から“ナイトワーク”のキャバクラ業界に転職されて、仕事の違いみたいなものは感じましたか?
「夜の業界、ナイトワークのほうが圧倒的に給料がよいです。広告代理店で働いてた頃の給料はいくら残業したところで月20万円そこそこでしたけど、キャバクラで正社員になったら基本給30万円ですから。毎月自分の成績によって即収入が変わってきますからやりがいがあります」──たしかに10万円の差は大きいですね。その差はどこからくるのでしょう?
「働く時間帯が夜間や深夜ということもありますね。コンビニなんかも深夜は時給があがりますよね。でも何よりキャバクラ業界って“ハイリスク・ハイリターン”な世界の仕事として括られていて、そのイメージに沿って高い給料が設定されているような気がしますね」──きつい、怖い、危険、みたいなマイナスイメージがあって働く人材が集めづらい。
「でも実際にはキャバクラってただの飲み屋だし、特にハイリスクでもないんですけど(笑)」──なるほど、負のイメージに引っ張られて給料が高くなっていると。昇格や昇給が早いのも同じ理由ですか?
「昇格や昇給の理由はスタッフの回転が早いのが大きいです。給料が高い分、休日が少なかったり心身的に大変な部分も多いんで、結局耐えられなくなって辞める人が多いんです。でも決して難しい仕事じゃないし、普通にこなしていけばドンドン昇格しますから、そのスピードも昼の仕事と違いますね」すっかりマネージャーの顔になった曽根さんはそう言って微笑んだ。