ガールズバーでアルバイトをしてる男性と一献【ライターはBARにいる】

ガールズバーでアルバイトをしてる男性と一献【ライターはBARにいる】

■ここは都心の繁華街。とある雑居ビルで営業するBAR

東京の歓楽街といってもこの界隈はまだまだ昭和の怪しく猥雑な雰囲気が残っている。

このBARはそんなエリアのど真ん中にある。
この街を根城にする夜の住民たちがフラリと立ち寄る、“憩いの場所”といったところだ。

時刻は午前2時30分。
今夜も一人カウンターに陣取りグラスを傾けていると、一人の男性客が店にやってきた。
マスターが声を掛ける。

「よう久しぶり。どう、新人ギャルは入った?」

おおかたマスターが行きつけの“ホテヘル”“キャバクラ”の従業員だろう。
何年もこのBARに通っていると、水商売の男達が放つ“独特の雰囲気”を嗅ぎ分けられるようになってくる…。
チラッとその男性客に目を向けてみたが、彼からはそんな“夜の気配”が一切感じられなかった。

年の頃は20代後半あたりだろうか、黒縁メガネにおっとりとした顔立ちで、白シャツにグレーのカーディガンという清潔感はあるが地味なファッション。
“THE 草食系男子”といったところか…。

私が思い描く、風俗業界や水商売に携わる男達は、もっとギラギラ&アグレッシブなイメージの“肉食系”である…。

マスターは、ちょうど空いていた私の隣の席にその男性を座らせた後、私の疑問を察したように言った。
「彼はね、すぐそこの“ガールズバー”でバイトしてるトモヒコ君」

■草食系のトモヒコ君は“ガールズバー”で働いていた。

「え?マスターがガールズバー通ってるの?」
『風俗専門じゃなかったの?』 と言いかけたがこらえた。

「この歳になるとな、キャバクラで飲んだり風俗に行ったりするのが面倒になる時があるんだよ。 そんな時はカウンター越しに可愛い女の子を眺めながら、軽~く1杯飲むのが丁度いいんだよ」
と言い訳めいた口調で言った。

すると隣のトモヒコ君から声が掛かった。
「今度マスターと一緒に飲みに来て下さいよ。カワイイ子揃ってますから」

こうして私はガールズバー勤務の青年トモヒコ君と話をすることになった。

■“ガールズバー”とは、どんなお店なのか?

私はあいにくガールズバーにまだ行ったことがない。
なので、まずはガールズバーってどんなお店なのか、そこから聞いてみる。

「ガールズバーとは、その名の通り、女の子がカウンター越しに接客したり、お酒を作ったりするバーです。 キャバクラ等と違って、朝の5時~6時まで営業しているので、サラリーマンのお客様はもちろん、夜の業界の人達がお仕事終わりに来てくれたりします」

「朝まで営業してるの?じゃあ今(深夜3時)もお店は営業してるんだ?」
「そうですね、ボクは今日休みなので飲んでますけどお店は営業中です。 ちなみに、キャバクラは“風営法2号営業”なので、“営業時間延長地域”のこの街でも、“深夜1時”までしか営業できないんですが、ガールズバーは“深夜酒類提供飲食店”の届出なので、“終夜営業可能”なんです」

「そうか、思い出した。確か10年位前、当局の規制が厳しくなって、キャバクラが深夜の時間外営業を出来なくなった頃から、ガールズバーが増えたんだ!」

「10年前だとまだ高校生だったんでわからないですが…。 でも店長からそんな話を聞いたことがあるかも…」

■“接待”行為はNG!その代わりに・・・。

「その頃、ガールズバーとしてオープンしたけど、実質的な営業形態はキャバクラだってことで、摘発される店とかあったんだよね」

「それはダメです。深夜酒類提供飲食店のガールズバーは、“接待”がNGです」
「女の子がお客を接待をしてはいけないってこと?」
「その“接待”の定義というのが難解なんですが、テーブル席やソファーを設けてお客様の隣に座ったりする接客はNGです」
「だからカウンター越しの接客なんだ」
「また、厳密に言うとお客様とカラオケでデュエットしたり、特定のお客様の近くで“継続して談笑”するのもNGみたいです」
「なんだそりゃ」
「だからキャバクラにあるような“指名”制度はなくて、カウンター越しの女の子は順次入れ替わっていきます」
「え!指名もできないの?」
「そうです、指名制度がないから、女の子が営業する必要もないんです。お客様が女の子の連絡先を聞くのもNGにしているお店もあったりしますから」

「朝まで営業してるってのはいいけど、そんな“接待”のない店って面白いのかね…」

「でもキャバクラよりは全然安く飲めますよ。 料金システムは“60分3,000円”飲み放題、とかの店が多いですね」
「料金はキャバクラに比べてリーズナブルなんだ。他に良いトコってあるの?」

「ガールズバーには“指名”制度がないので、女の子はキャバ嬢と違って“同伴”や“指名”の“ノルマ”や“罰金”がないんです。 だから仕事をするハードルが低いので、普通の女の子が集まりやすいんですよ。 その結果、女の子のレベルも高くなりますね」

「そっか、ガールズバーはキャバクラみたいに“恋愛ゲーム”を楽しむ場所じゃなくて、基本的には普通の“バー”なんだね。 ただ、バーテンがこの店みたいな“オッサン”じゃなくて、カワイイ女の子っていう。 そしてチョイチョイ会話も楽しめると…。そう考えたら楽しそうだね」

「ええっと・・・まあ、そういう事です」
トモヒコ君はマスターが会話を聞いていないのを確認してから、そう言って笑った。

■ガールズバーの男性スタッフ・仕事内容は?

これまでの話で、ガールズバーがどういったお店なのかはわかった。
カウンター越しに、カワイイ女の子が揃っているバーってことだ。

ではトモヒコ君のような男性スタッフは、どんな仕事をしているのだろう? 

■開店準備、閉店作業、掃除
開店時間の1時間前にはお店に来て、店内の清掃や席のセッティングといった開店準備を行う。
また閉店後の後片付けも行う。
■ホール業務全般
グラスや灰皿、おしぼりなど席のセッティング、お客様のご案内やオーダーの確認、
ドリンクやフードの提供、アイスや灰皿の交換といったウェイター業務を行う。
■その他雑用
タバコ、備品などの買い出しなど、お店で発生する様々な雑務を行う。

「キャバクラと同じく、女の子に接客するお客様の移動の指示を出す“付け回し”の仕事もありますが、 これは店長や幹部スタッフの役目です。 ガールズバーには本指名や場内指名といった指名制度がないので、付け回しもキャバクラに比べたら随分簡単だと思います」

■“ビラ配り”や“客引き”も仕事なのか…?

夜の繁華街をウロついたことのある人は必ず見たことがあるだろう。
ミニスカートやショートパンツ姿で太ももを露わにした女の子がビラを配りながら、道行く男達に声を掛けている光景を…。

『ガールズバー、いかがですか~♪』
と、球場のビールの売り子みたいな掛け声を出しながら街角に立っている姿を…。

「ガールズバーの女の子達って、路上でビラ配りとか声掛けとかしてるでしょ? その管理も男子スタッフの仕事でしょ? 男性スタッフも客引きをするの?」

「最近はビラを配ったりして客引をするお店は減りましたね。 ウチの店も以前はやってましたけど今はやってません」

「それはまだどうして? あれって集客面で効果的なんじゃないの? 女の子に付いて行くオッサン達を何度も目撃したことがあるよ」

「そうなんですけど、ガールズバーって“深夜酒類提供飲食店”の営業届出で、深夜営業の居酒屋とかと同じ括りなんですよね。 だからお客様への声掛けも『まあ大丈夫だろう』みたいなノリでやってたと思うんですが、今は“迷惑防止条例”もあって規制が厳しくなってるんです」
「確かに“客引き禁止”の指導をしている警察も見かけるね」
「それに女の子たちも嫌がりますしね。 今は求人情報に“ビラ配り・客引き一切なし”ってわざわざ謳って、女の子の応募が増えるようにしてます」

「キャバクラだと女の子の“送り”の仕事があるでしょ。ガールズバーには女の子の送迎の仕事はないの?」

「ウチのお店には“送り”はないです。 ガールズバーはだいたい朝まで営業してるので、終電以降も働く場合は、始発が走る朝まで働いて・・・、というパターンです」

■ガールズバーの男性スタッフ、その給料は?

「ガールズバーの男性スタッフの仕事って、普通のショットバーとか飲食店の仕事とあまり変わらないような気がするね」

「そうですよ、カワイイ女の子と一緒に働けるっていう特典はありますが(笑)」

「それでどのくらいの給料が貰えるの?」

私は気になっていたことを思い切って聞いてみた。

「ウチのお店は、アルバイトは時給1,200円スタート、 正社員だと月給25万円スタートです」

「う~ん、それは昼の一般的な仕事に比べたら高い方なのかな? でも、ナイトワーク関連の仕事としてはどうなんだろう?」

「いや、キャバクラなんかと比べたら給料は安いですよ。 実はボク、以前キャバクラで正社員として働いてたんですが、月給30万円スタートでしたからね。アルバイトは時給1,500円スタートでした」

そう言って、トモヒコ君は、以前働いていたキャバクラグループの名前を教えてくれた。
それはこの街にも店を構える、老舗のキャバクラグループだった。

「それなのに、なんで今はキャバクラじゃなくてガールズバーで働いてるの?給料が高い方がいいじゃん」

「ガールズバーの方が給料は安いですけど、“気楽”なんですよね・・・」

■トモヒコ君がガールズバーで働く理由は?

気楽・・・。 それは仕事が楽だから、気楽ということなのか?

「いや、そういう意味じゃないんですけど(笑)。ホールだとキャバクラもガールズバーも、仕事の内容はそんなに変わらないです」
「じゃあ、どういう意味?」

「キャバクラってなんかノリが“体育会系”というか、“上下関係”も厳しくてボクには合わなかったですね…」
「なんか分かる気がする」

「それと比べたら、ガールズバーの方がもっと“ユルい”っていうか・・・、気軽な雰囲気で働きやすいんですよね」

「キャバクラは、人間関係や上下関係なんかも含めて、店の雰囲気が厳しいと。 でもそれって働いてたお店が偶然そうだっただけじゃないの?」

「そうかもしれませんが、そのグループを辞めた後も、いくつか別のお店で働いたんですが、どこも似たり寄ったりで続きませんでした」
「そうなんだ…」

「それにキャバクラは、お客様が支払う金額も高いじゃないですか。 その分、接客にもそれ相応の“質”が求められますからシビアな面はありますよね」

■ガールズバーで働く女の子とキャバ嬢にも違いが・・・。

トモヒコ君はため息をつき、さらに続けた。
「働いてる女の子も、キャバクラとガールズバーでは全然違います」

それは興味津々。
「キャバ嬢って、お客様を呼べば“歩合”(バック)が付いて収入が増えますが、その分指名を取らなければならない“ノルマ”や、同伴出勤が出来なかった時の“罰金”みたいな厳しいルールもあるので、ピリピリしてる子も多いんですよね。 女の子同士が“ライバル関係”だったりもするし・・・」
「女の闘いだ。ちょっと怖いかも」

「だから、キャバクラって男性スタッフがそれぞれのキャバ嬢の担当になって、色んなケアをするんですよ」
「メンタルケアみたいな」

「そうです、キャバ嬢の仕事に対するモチベーションをキープしてもらうために、グチを聞いたり、悩み事の相談相手になったりしながら、ヤル気を出してもらう」
「んで、悩みを聞いてるうちに、恋が芽生えちゃったりすんだろ、コノヤロ!」

「いやいや、それは“風紀”違反で厳罰です。 というか、そんなのは夢のまた夢の話で、キャバ嬢にとっては“ヒラ”の男性スタッフなんて完全に“下僕”ですから・・・、ゴミ扱いですよ(笑)」

「それはキツイな、でもあくまでも主役はキャバ嬢だからなぁ…」
「完全に“パシリ扱い”でした。あくまで女の子によりけりですが…」

「でも、女の子が主役という意味では、ガールズバーも同じではないの?」

「いや、全然違います。 もちろんガールズバーにも“ガチで”稼ぎに来ている女の子はいますけど、どちらかというと友達と一緒にヒマな時間でお小遣いを稼ぎたい・・・、みたいなノリの女の子が多いんですよ」
「すごい稼ぎたかったらキャバクラで働くか…」

「そう、キャバ嬢よりは全然稼げないけど『キャバクラには抵抗がある』とか、『ノルマや罰金、同伴やアフターなんて面倒くさい』なんていう普通の女の子が多いんです。 女子大生とか昼間は普通の会社でOLさんをしている子とか“素人”さんが結構働いてますよ」

“素人”というワードにマスターが反応したのを目端に捉えたが、無視。

「そんな素人の女の子が多いので、接客とかはあまり上手ではないですけど、そんなトコもお客様には受けたりして・・・」

「なるほどね、全体的に“気楽”なノリなんだね。“パシリ扱い”もされないし」

「自分は元々『店長になりたい』とか『水商売で成り上がりたい』みたいな欲もないんですよ。 上下関係とかプレッシャーが少なくて程々に稼げる今のバイトは気に入ってます。 カワイイ女の子と友達になれるし(笑)」

■ナイトワーク未経験者の“登竜門”としてオススメ!

マサヒコ君曰く、自分にとって“やりたいこと”が見つかるまでは、ガールズバーのアルバイトを続けるという。
確かに、彼の話を聞いていると“悪くない”仕事だと感じた。

今後、水商売やナイトワークの世界で働いてみようか・・・、と迷っている人にとっては、その“登竜門”としてガールズバーで働いてみるのもいいかもしれない。

しかし・・・。

知らぬ間に私の前に立っていたマスターがこちらを見て言った。
「楽しそうな仕事だけどさぁ…、まだ若いんだし、せっかく夜の業界で働いてるんだから、もうちょっと『成り上がってやろう』みたいな気概があってもいいんじゃないかね…」

やはり会話を盗み聞きしていたらしい。
昔々カリスマホストとして一時代を築いたマスターならではの感想だった。

そして、それはまた、私が感じていたことと同じだった。
私は思わずマスターに同調しそうになって、しかしやっぱり思いとどまった。

いつの時代にも、若者には若者の考え方がある。
それを、何も知らない訳知り顔のオッサン達に否定される筋合いはないのだ。
『最近の若者は・・・』みたいな、古めかしい小言は厳禁である。

さて今宵は、酔いどれマスターを誘ってガールズバーにでも行ってみるか。
幸い、まだ朝まで時間はある。
私は、グラスに残った酒を一息に飲み干した。