即日勤務とは実態をライター橘美琴が調査

日給10万円稼ぎの目論見はずれ、ガックシ肩を落としているところに

「戸崎っーーー!頼むっ!」
「差せー差せーー!いけーーー!!」
「おいおい。ペース遅いよ。何やってんだよ」
「いや…そんなの買えねえから!」
「またルメールかよ。全然、空気読まねえなあ~。
外人買ってりゃ当たりってか?」

レースが実況されるモニターを取り囲む男たちの声、声、声。
ギャンブル好きなら、場所がすぐ特定できるだろう。
そう、ココは場外馬券発売所のウインズ@新宿。

そして、土曜の午前中から、「競馬は投資だ!」と
“日銭”を稼ぎに来たものの、ハズレ馬券を静かに破り捨てる(紳士的ではある)、
を繰り返す、しがないライターが私の稼業である。
今日も変わらず時給1万円!日給10万円の夢破れ………

午後になっても流れは変わらず。
冷房が効いているはずの館内だが、頭や顔、首に汗がジワリ。

「次こそ!次のレースこそ大きく仕留めるぞ!!」

パドックが映し出されるモニターを睨みながら、自分に言い聞かせる。
……視線を競馬新聞に落とした瞬間、ポケットに差し込んでいた愛機ガラケーから軽快な音楽が鳴った。
相手は前の勤務先の同僚、部下で現在は求人情報サイトも手掛ける広告屋に転身した三田(匿名)だった。

「先輩、生きてますかー?調子はどうですかー?」
(生きてるから電話で話してる。馬券の調子は聞くな)

「あのですね、“即日勤務とは”をお題に単発コラムを1本お願いできますか」
(仕事の依頼じゃないか、有り難い。けど、ん?何だその聞き慣れない四文字熟語は)

「じゃ、あとはいつものように。土日でチャチャッと仕上げて週明けヨロシクでーす。
もう一度言いますけど、テーマは『即日勤務』。楽しみにしてます」
(日曜競馬の出勤がなくなったってこと?にしても馬と騎手の名前で埋め尽くされた頭に、
まるで入ってこないぞ即日!勤務!大丈夫か…!?)

心の声が駄々漏れ、失礼。
サイフの中身が薄くなる一方の初夏の労働からは解放されたが、なかなかの荷物を背負わされたよう。

さて、どう動くか。
ココは大都会、新宿のど真ん中。
人気ドラマ「小さな巨人」のセリフ“所轄は待機!”じゃなくて“所轄刑事は足で稼げ!!”ヨロシク、
駅前で声を張り上げてみるのも手か。
「『即日勤務』この言葉にピンとくる人いませんかーー?」
手を挙げた人を片っ端から捕まえて話を聞く……効率が悪いか。

せっかくの仕事ゲットも頭が回らない(負け過ぎ注意)とりあえず屋外に出てクールダウン。
すると、依頼主、三田ちゃんのアドバイスが空っぽの頭の中を巡る。2人の優秀な“助っ人”の顔が浮かんだ。

編プロ勤務時代の後輩で、
新聞や雑誌の記事を受け尽くす風俗系ライター守山クン(匿名)と、
イケてる男性向け情報誌に転職した編集者の丹田クン(匿名)だ。
早速、連絡を取り、即日勤務経験者で、話が聞ける人がいないか当たってもらうことに。

そんな頼みごとに、二つ返事で「いいっすよ。探してみます」とは心強い。
2人揃って「先輩、競馬の調子はどうですか?明日のビッグレース、どこから買います?」
こう聞いていたのには笑ったが。

単発から長期まで勤務期間も様々な「即日勤務」稼業の経験者かく語りき

即日勤務とは
求人に急募!即日勤務可能・OKとあるのは、その多くが「今すぐ働ける人を募集しています」という意味。
ただ、「即日」の定義は求人側によってまちまちなのは覚えておきたい。
面接当日に採用が決まり、その日から働くことができる場合、数日後に採用の連絡がきた日から、
また雇用手続きの関係上、翌日からの勤務とバラバラだからだ。
「いつから勤務が可能なのか?」を確認したり、「いつから働けます!」とアピールすることを忘れずに。
即日勤務で多いタイプの仕事にはティッシュ配りやチラシのポスティング、イベントスタッフ、
商品・製品のテスティングといった単発ものが多く、また清掃や配送、軽作業など簡単なものが目立ちます。
研修やマニュアル完備、サポート指導にはあまり時間を割いてくれないので最初は苦労するかもしれません。

風俗系ライター守山クンの紹介で、佐藤孝幸さん(仮名)とアポが取れた。
仕事はメールオペレーター/データ入力だ。

メールオペレーター/データ入力のお仕事解説⇒

・ワードやエクセル、パワーポイントなどのアプリケーションソフトを使って
 データや文章、資料・書類を作成する仕事。
・会社によっては電話応対やデータ管理といった業務まで行う場合もある。
・基本的なパソコンスキルは必須で、正確さやスピードも重要。
・肩こりや指の痛み、目の疲れ、偏頭痛などカラダに不調が生じることも。
・求人募集は正社員、アルバイト、派遣、在宅など様々なタイプがり、離職率が高いことでも知られる。

経験者1人目で話を聞いてみた。
まずは簡単なプロフィールと、即日勤務で働くことになった理由を紹介する。

【ケーススタディFile:01】佐藤孝幸さん(24歳)

(プロフィール)
東京都練馬区出身。
三流私立大経済学部卒。
新卒で通販系企業に就職するも、人間関係やパワハラに悩まされ半年経たずに早期退社。
コンビニバイトなどフリーターを経て現職。

(理由)
バイトを辞めその後、気分で仕事をしたり、しなかったりの半ニート生活から脱出するため。

「求人広告には『PCオペレーター/データ入力』と堅苦しく記載されてましたが(笑)
コミュニティサイトのメールオペレーターです。
掲示板サイトやSNSでユーザーを引っ張ってくるバイトですね」

──どうやって見つけました。

「ココに入ったのは、バイト時代の知り合いの紹介。
といっても直接の紹介じゃなく、街でばったり会った時に立ち話をして、
何か羽振りが良さそうなので今の仕事を聞いたら、コミュニティサイトのオペレーターだって言うんです」

──それで、食いついたと?

「ですね(笑)羨ましく思えたんです。で、軽く仕事内容を説明してもらって、
これも縁かと応募してみることにしたんです。
ちょうど、ほぼ無職でしたから。
求人探しのコツを『ネットで当たりを付けて、雑誌で大きな枠で募集出してるとこがいいんじゃない。
儲かってる証拠でしょ』と、これだけアドバイスしてくれました」

──あとは自力で?

「言われるまま、求人雑誌を広げたら『やる気を高収入に変える!』『即日即決勤務OK』
『時給1500円~。歩合、能力給・ボーナスあり』『24時間自由シフト制』『服装・髪型自由』
『駅至近の勤務地選べます』といった好条件がズラリ。
そこで3社をチェックし、第2候補が今の職場です。
ちなみに第1本命はタイミングが悪かったのか、電話応募の段階で「今回は募集定員に達しました」と。
人気求人だということを、突きつけられましたね(笑)」

──面接はどんな感じでしたか。

「指定された渋谷のオフィスビルに出向き、担当者に履歴書を渡して、面談。
その後、タイピングテストがあり、説明を受けました。
勤務日を週4~週6から決め、希望勤務時間帯の選択も。
特に問題がなかったのか、「では、明日から働けますか?」と聞かれ、採用となりました」

──その場で合格?

「それが普通か、どうか分かりませんが採用になりました。
ハキハキした受け答えやタイピングには自信がありましたから、使ってみようとなったのかもしれません」

経験者優遇に誘われステップアップ狙う!

──で、翌日に初出勤。準備期間がなくて不安ありませんでしたか。

「勤務初日ですか?例の知り合いから話を聞いていたので、さほど驚きはなかったですね。
ただ、キーボードを打つ作業音だけが響き、100台以上のパソコンが埋め尽くすフロアは圧巻でした。
あと、そこにいたのが同世代の男性ばかりという点も。
まず、僕ともう1人、同じ年ぐらいの茶髪…いや金髪クンと担当者からの研修を受けました。
トラフィックの増やし方、返信用テンプレート例などが書かれたマニュアルを見ながら話を聞いて」

──マニュアルの用意があるんですね?

「ありますね。それをまず頭に叩き込んで、あとは臨機応変に。
メールのやり取りをするのは不特定多数ですからね。
目的が出会いだとしても相手の年齢や職業、興味のあること、みんな違いますからね」

──確かに。気になる給料や勤務はどんな感じで?

「シフトは今も一緒で深夜23時からの勤務、未経験で入ったので時給は1300円スタートでした。
深夜帯でも仲間が30人前後はいましたね。
休憩が2時間につき10分、ただ“免疫”のない人で、勤務初日の休憩時間中にバックれた人もいましたね(笑)
同期バイトの金髪クンは、休憩中に普段は何をしているのか尋ねたら、そのまんまバンドマンでした。
彼によると、メールオペレーターのバイトは音楽関係者に人気だそうです。
他にも専門学生、フリーター、掛け持ち副業とメンツはバラバラでした」

──歩合やノルマ、昇給、ボーナスなんかは?

「ノルマはバンバン。
時間ごとや1日設定でノルマが設けられていて、決められた返信数に達しないと時給を減らされます。
22時から翌1時の“ゴールデンタイム”は返信ノルマがさらに増えます。
逆にキャンペーン実施期間中は、目標を達成するとボーナスが出ますね。
日給以外に最高でボーナス3万円が乗ったこともあります。
働き始めて約半年で、時給は1300円から1800円にジャンプアップしてます」

──向いていたのかも知れませんね!今後、社員を目指すとか目標はありますか?

「社員はサイトの運営・管理業務がメインで仕事が全然変わってくるので考えたことないですね。
かといって、今の職場は居心地がいいのですぐに辞めるつもりもない。
居心地が悪くなったら?
別の大手他社に行くことはあるかも。
他社サイトの経験者は、かなりの高待遇で迎えてくれて稼げるそうですから」

コネも使いホストクラブの「体験入店」から夜の住人の経験者かく語りき

2人目の証言者は、群馬出身の瀬戸泰三さん(仮名)。
情報誌編集者の丹田クン紹介の新宿・歌舞伎町ホストだ。
前述と同じく簡単なプロフィールと、即日勤務で働くことになった理由を紹介する。
この瀬戸さんの場合、即日勤務どころか当日勤務になる。
多くのホストクラブが採用する「体験入店」から、この道に入ったからだ。

【ケーススタディFile:02】瀬戸泰三さん(20歳)

(プロフィール)
群馬県前橋市出身。
可もなく不可もない高校生活を送ったのち、上京。
東京・板橋区内のコーポに1人暮らし。
とび職見習いから「高給取りに魅せられ」左官工に転職。
ただ、センスや実力がなかなか身につかず、それに伴い月給20万円を超えることはなかった。

(理由)
ガテン系ワークに見切りをつけ、地元の先輩を頼る。「若いうちしかできない」と心機一転で。

ホストクラブのお仕事解説⇒

・女性客の隣に座って接待する社交飲食店の男性従業員。ホスクラと呼ばれることも。
 ホストラウンジ(ラウンジ)、サパークラブ(サパー)もほぼ同じ。
・華やかで楽に稼げるイメージを持たれがちだが、店への貢献(売上)が少ない、
 ほぼないホストの生活は困窮に近いことも。
・暴力や派閥、売上ノルマ、強制同伴などの有無は店によって異なるため勤務店探しは慎重に。
・一定以上の売上を上げると、それに応じたバック給がもらえ稼げるホストの仲間入り。
 店によって率は違うが半額バック(総売計算)は保証。
・年齢やキャリアに関係なく、完全実力主義。20歳で月給100万円など夢がある商売なのは間違いない。

「地元の仲間と電話してる時に、ソイツから『また聞きなんだけど、
オレらの2コ上の先輩で佐崎さんっていたじゃん。
佐崎先輩さあ、今、東京でホストやってて、めちゃめちゃ稼いでるらしいよ。
羨ましくない?』と聞かされて。

前から興味もあったし、先輩のコネというか紹介で潜り込めるなら、
まったく知らないとこよりいいかなあ~と相談してみることにしたんです」

「連絡先に電話してみると、『おー!泰三かあ、久しぶりだな。聞いた、聞いた。
ホストやりたいんだって?一緒に飲んだことないけど、酒、強ええのかよ?
学校出てから、どんな仕事してたんだっけ?』と聞かれて、

近況報告とやる気だけをアピールしたら『なら、体験入店から始めるのがいいかもな。
担当に話通しておくから、あとは頑張れ!』と」

高校時代はサッカー部に所属、仕事柄、体力には自信があった。
お酒も飲み始めてまもないが、よく強いと言われる。
ルックスは自称イケメン、笑いが取れるキャラじゃないが、社交性もあった。
後日、顔写真付き履歴書を手に指定された場所へ出向く。

──紹介で、体験入店でも、ちゃんと面接があるんですね。

「履歴書を渡して自己紹介し、希望動機や意気込み、どのくらい稼ぎたいか、
週にどれだけ働けるかなどを聞かれました。
『やる気は負けません!』『体力には自信があります!』『先輩について頑張ります!』ぐらいしか、
アピールした記憶がないんです(笑)
営業準備に忙しそうで、ちょうど雑誌の取材&撮影も行われてました。それで繁盛店なのかな、と」

──先輩のコネ入店ですよね。アドバイスはなかった?

「未経験なので、聞きたいことはいっぱいありましたが、
『大丈夫!心配すんな!けど、入った後はオマエ次第だからな』と言われていたので、
ビビりながらも何とかなるかなって。
店の隅に場所を取っての面談だったんですが、『話、聞いてるよ。飛翔の後輩なんだって』と
担当者から言われた時は少し気分が楽になりましたね」

──体験入店に際し、助けられたと。

「先輩の店での名前を聞いてなかったんで、『飛翔って誰』と頭の中に?マークが浮かびましたけど。
店内パネルに佐崎先輩の写真を見つけて、下に名前があったんで、あー!って。
あとは給料の説明や仕事の流れの説明を受けて、そのまま体験入店が決まりました」

実力至上主義の世界で成り上がりの道駆ける!!

無料レンタルのスーツに着替え、専属ヘアメイクに髪型をセットしてもらい準備OK。
お客さんへのタバコの火の付け方、お酒の作り方といった新人の最低限の仕事を教わり、まずは先輩への挨拶。
言われるまま店内掃除やセッティングの手伝い。
何のスキルもないので、ハキハキ、テキパキを心掛ける。
営業開始が近づくも、まだ先輩の姿はなかった。

──そのまま営業に突入ですか?

「代表や店長など肩書付きの幹部も揃っての全体ミーティングが毎日あります。
1人1人、本日の売上目標を発表していきます。
売上が少ない人には『しっかり営業してんのか?』などハッパが飛びます」

──ミーティングには先輩も参加して?

「このまま来なかったら……勤まるかな~と余計にビビり始めた頃に、
その場にいた人から『おはようございますー!!』と声が飛び、視線をそちらに向けたら先輩の出勤でした。
思わず2、3歩近づいて「先輩っ!」と声を掛けたら、「ココでは飛翔さんと呼べ!」と睨まれて、
ビビりがマックスに。逃げ出したくなりましたよ。
ただ、すぐに柔和な顔になり『また、あとでな。頑張れよ』と言ってもらい助かりました。
源氏名の大地(だいち)は先輩の命名です」

全体ミーティングの後半で、自己紹介するよう促されて、みなさんに挨拶をする。
最後に『いらっしゃいませー!』『失礼しますー!』『ありがとうございますー!』と声出しをして修了。
照明が変わり、BGMで音楽が流れるのが営業スタートの合図だ。

──お客さんの来店で、ここからが本番です。うまく接客できました?

「いきなり席に着くことはないです。再度、先輩から基本的な接客のテーブルマナーを教わります。
お酒を作る順番、乾杯ドリンクの準備、お客さんに「一杯、頂いて宜しいですか?」
と尋ねてから自分の分を用意する。これは何度も言われました。

緊張はなかなか抜けません。そうこうするうちに『大地ーー!』と名前が呼ばれました。
先輩です。飛翔さんが担当でついている席があり、ヘルプの先輩が手招きします。
その横に座り、お客さんに挨拶をしてお酒の用意や灰皿交換など雑務全般をこなしました。
笑顔は絶やさないようにして。

先輩がたまに『コイツ、地元の可愛い後輩なんだよ』とか『今日は体験で、入店初日。
まだ右も左を分からないけどヨロシクね』とか、話を振ってくれて、何とか乗り切った感じです。
お客さんからの『そうなんだあ。頑張ってね』にも励まされましたね」

──ホストクラブ、体験入店でも即日勤務1日目を終えて、いろいろな感想を持ったと思いますが。

「一般的なイメージと、実際ではまるで違いますね。
あと、実力主義で売上のあるホストと、ないホストの格差はものスゴイ。
稼ぎはもちろん店での待遇も違います。厳しい世界です。
体験入店の時は保証日給の半額、4500円を現金でもらいましたが、
バイトの時給換算じゃ稼げない…本入店じゃないと最低限も稼げない…
などを知ったのですぐに常勤採用して頂いて。
先輩にも可愛がってもらい、給料も何とか今のところ前月より上できてます」

“即日勤務”を考えて、行動に移そうとしている人に2人の体験談は参考になるだろう一一。
と、原稿をまとめてメール送信。
日本ダービーと呼ばれるG1「第84回東京優駿」は近所の中華屋のテレビモニターで観た。
当然、馬券は「見(ケン)」だ。
出勤予定の日曜競馬ですられずに済み、かつ原稿料が入るという一石二鳥の素敵なサンデー!
(あとで調べたら購入予定の◎ペルシアンナイトは7着と完敗)

週明け、今回の依頼主である三田ちゃんから返信が。
「いいと思います。問題ありません。有難うございます」と抑揚のない文面の後が笑った。
「それより昨日の競馬は?ガチガチ人気決着だったからまた外れたんでしょうね」

気のせいかもしれないが、ウキウキしてるじゃねえか!腹が立つ(結果は2-3-1番人気で決まった)
取材と執筆で検討する時間も買いに行く時間もなかったっちゅうねん!
が、そこは大人の対応を。
「ホント堅い決着で……崩れ落ちました……またお世話になります(笑)」とキーボードを叩く。
パスしたので、負けなかったが、「また負けたのか。仕方ない、仕事振ってやるか」となれば儲けものだから。

※なお、私の関係者は今後の仕事や生活に支障が出ると困るので、すべて匿名に致しました。