ナイトワーク専門!その男の仕事は?
ここは都心の繁華街。とある雑居ビルでひっそりと営業するBAR
- 夜9時、いつものようにBARへと向かう。
今回はこの街で不動産の営業をしている男性に話を聞く。
『ドカント』の原稿だけに、“普通の”不動産屋の話では筋が違う(?)ので一風変わった不動産屋さんに語ってもらおう。待ち合わせ時間にビシッとスーツを着て現れたのは、イケメンの立花氏(31歳)。
名刺交換をしながら簡単な挨拶を交わすと、立花さんは言う。「夜の街専門のライターさんなんですね?部屋を探している人がいたら紹介してください。水商売や風俗業でも全然OKなんで……」
そう、彼はキャバクラ嬢に風俗嬢、ホストや風俗店員など、歓楽街を職場とするさまざまな人々に住まいを提供する、賃貸不動産の営業社員なのだ。
キャバクラ・ホスト・風俗業大歓迎!夜の街の部屋探し
夜の街の住人たちに“ヤサ”を斡旋する仕事と聞いて興味を持った。
不動産屋から見たナイトワークに従事する人々の実情を聞いてみよう。──立花さんが働いている不動産屋は、キャバ嬢や風俗嬢、ホストなどのナイトワーク従事者が専門ですか?
「いや、普通のお客さんも来ます。“普通”というと失礼ですけど(笑)」
──ナイトワーク専門といったわけではなく、いろんなお客さんに対応してるんですね。
「そうです。僕はナイト系が多いですが……社長が前に働いていた不動産屋が、ナイトワークのお客さんを積極的に扱って好調だったので会社をこの街にしたそうです。ホームページも一般向けとは別にナイトワークで働いている人に向けたサイトも作ってます。営業時間も普通は午前10時からですが、ウチはお昼スタートで夜は20時までやってます」
──夜の街の住人に寄り添った営業スタイルですね。今は水商売で働く人向けの賃貸物件サイトがあるんですね、時代も変わった……
「今は『お水 不動産』や『風俗 不動産』などのキーワードでググれば似たようなサイトがズラリと出てきます。“キャバクラ・風俗・ホストやってる方、審査お任せください!”みたいなキャッチをバンバン載せて……」
──昔は水商売、ましてや風俗で働いている人は、なかなか審査が通らなかった。
「そうです、だから以前は部屋を不動産屋が借り上げて、審査が通らない人に高い手数料をのせて“又貸し”する業者も多かった」
──普通の物件だと入居審査が通らなくて、結局そんな不動産屋から相場より高い家賃で部屋を借りてる知人がいました。今は状況が変わりましたか?
「以前の長い不景気で、賃貸マンションに空き部屋が目立ってからですね。歓楽街周辺のマンションは特に、空き部屋になるよりは水商売でも風俗でも何でもいいから入れちゃえって感じの管理会社が増えました。もちろん一流企業の名前が入った賃貸マンションは今でも審査が厳しいですが……」
──それでも以前に比べると、水商売の住人も部屋を借りやすくなったと……なぜ彼らの部屋探しをメインに?
「それは賃貸不動産屋の給与体系が関係してます」
賃貸不動産会社の給与体系 ノルマを達成するために……
- ──給与体系はどのようになっていますか?
「まず基本給があり売上ノルマを超えると、歩合給として加算されます」
◆立花さんの会社の給与体系◆
基本給:月給20万円
仲介手数料の売上ノルマ:月間80万円
売上ノルマを達成すると、ノルマを超えた金額の20%が歩合給として加算される。
(収入例)
売上100万円の場合→基本給20万円+歩合4万円(20万円の20%)=月収24万円
売上300万円の場合→基本給20万円+歩合44万円(220万円の20%)=月収62万円
※宅建免許の資格手当あり(3万円)、別途交通費支給。「金額や歩合率は会社によって違いますが、仕組みは似たような感じです」
──基本給にプラス歩合のシンプルなシステム。でもそれとナイトワークのお客さんをメインにする関連は?
「賃貸の不動産屋は繁忙期と閑散期が分かれてるからです。例えば、2月や3月は4月の新年度から東京に来る新入生や新社会人が一斉に部屋を探すので忙しくなります。逆に、4月から6月になるとお客さんは来ないし物件も埋まっていてヒマになっちゃうんです」
──どうしても波はありますね。
「そんな状況を賃貸不動産屋の給与体系に当てはめると、2月3月の繁忙期はどんどんお客さんが来るので、売上ノルマは簡単にクリアできて歩合でホクホクなんですけど……4月から6月の閑散期はノルマ達成もきつくなるんです……そのためにどうするかと考えると……」
──話が読めてきました。
「夜の業界は絶えず人が出入りしてますから。キャバ嬢や風俗嬢、ホストは4月の新年度に合わせて上京するわけじゃないんで(笑)色々な事情で常に移動してますから、毎月お客さんを拾ってノルマを埋められます」
──夜の街には季節を問わず仕事を求めて人が集まって……去っていく人も多いですが……
「僕がナイトワークのお客さんをメインにしてる理由は、他にもあります」
「受け身」から一歩踏み込み「攻め」の仕事に!
- ──その他の理由とは?
「賃貸不動産屋の営業って、基本的に“反響待ち”なんです。不動産情報サイトや会社のホームページからの問い合わせ、店舗前の物件情報を見て来店、いずれにしてもお客さんから反響があって仕事が始まります。逆にいうとお客さんからアクションがない限りは仕事になりません。そして要望にマッチした部屋が無事に見つかったら契約となって終了。リピーターはいません」
──たしかに……
「賃貸不動産の営業は未経験でもできる仕事ですが、ひとつの仕事が次の仕事につながらなくて……だから反響が減る時期になると、給料がガクンと減って辞めちゃう人が多いんです……」
──自分も何度か引越しをしたけど、その時の不動産屋さんは覚えてないですね。
「それに比べるとナイトワークのお客さんは、こちらが親身になって部屋探しをすると、同僚や知人を紹介してくれるんです。そしてその人がまた別の人を紹介してくれたり……また『こんな物件に空きが出ましたよ?』という感じでこちらから提案して契約が成立したりとか……」
──部屋探しに苦労をした経験のある水商売の人からは喜ばれますね。
「問い合わせを待つ受け身の仕事から、人脈を活かしてもう一歩踏み込んだ攻めの仕事ができるようになりました」
──それで毎月のノルマを達成して給料もドカンと入ってくると……ぶっちゃけ月収はどのくらいですか?
「まぁ片手(50万円)以上はもらってます。繁華街の物件が多いので、家賃が10万円以上の高額物件を扱ってるのもありますが……」
──月収50万円以上!やりますねぇ。
四畳半からタワマンまで!夜の世界のヒエラルキー
──ナイトワーク系のお客さんを相手にする仕事で大変なことは?「ナイトワークといっても、時給千円台で働くキャバクラの男性スタッフから月収300万円を超えてる売れっ子ホスト、格安キャバ嬢から高級クラブのお姉さん、風俗嬢に風俗店員とさまざまで……それぞれが求めている物件には天と地の差があって、審査の難易度もケースバイケースです。それらに細かく対応するは大変ですね」
──夜の世界は実力主義、完全なヒエラルキーがあります。頂点と底辺では雲泥の差、それこそ四畳半のアパートからタワーマンションまで、多様な物件を把握する必要がある。
「そうです、例えばホスト業界はわかりやすいですね」
不動産営業から見たホストの世界
- ──不動産屋さんから見たホスト業界は?
「ホストクラブの求人内容を見ると、“高級マンション寮完備”と書いてあります。普通は“ワンルームマンションに一人で住める”と思いますが、実際は3LDKのマンションに複数の新人ホストと共同生活をする“タコ部屋”だったりして……」
──TVなどでよく見ますね。
「しかも月3万円など結構な寮費を取られたりしますから。そのタコ部屋も僕が仲介してるんですが(笑)」
──やはりホストも厳しい世界なんですね。
「ほとんどの新人ホストは挫折しますが、そこを勝ち抜くホストもいるんです。そしてウチで部屋を借りてくれる(笑)」
──タコ部屋を脱出するわけですね。
「ホストもキャバ嬢も収入が上がるとワンルームから2LDK、3LDKと部屋もグレードアップしますから。バースデーイベントで“ウン千万円”を集めるようになって、タワーマンションのゴージャスな部屋に引越しとか」
──夜のサクセスストーリー!
「そんな人はほんの一握りですが、実際に成功している人います。ホストさんに家賃150万円のタワマン最上階を仲介したこともあります」
──他に苦労したことはあります?
「風俗の女の子に多いんですが、ホストにハマって家賃滞納、来月には追い出される……引越しをしたくても初期費用が用意できない……こんな相談は多いです。最近は、敷金無料や礼金無料など初期費用がかからない物件も多いし、分割払いやクレジット払いもできますが、それにも審査や限度額の問題がありますからスムーズに契約が進まないときは手がかかります」
──業界的にぶっとんでる子もいますから一筋縄ではいかないですね。
ナイト専門の不動産業ならではの“役得”はある?
このようにナイト業界の人脈を仕事につなげて収入を増やす立花さん。その人脈には、きっと可愛いキャバ嬢や風俗嬢もたくさんいるだろう……いや、いるに決まってる。
──お客さんには、可愛いキャバ嬢や風俗嬢もいますよね?仕事絡みで何か“浮いた話”はありませんか?
「浮いた話ですか(笑)あるといえば……」
──やっぱりあるんだ!
「部屋探しってお客さんから希望の家賃や場所、ペットの有無とかいろいろな条件を聞いて、それに見合った物件をピックアップして見つけていきます。その過程で個人的な話を聞いたりしていると、同じ目的に向かう仲間意識が生まれるんですよ」
──なるほど、連絡も密に取り合いますからね。
「そして物件が決まったときには、ともに戦い抜いた戦友みたいな感じで距離が縮まります。お祝いと称して飲みに行ったり(笑)」
──個人的な話もしてるし、新居も知ってるし(笑)
「そのおかげじゃないですけど、今の彼女は“○○○○○”の子ですよ」
──ん?“○○○○○”といえばこの街で有名な高級キャバクラじゃないですか!
「他にも、部屋が決まったキャバ嬢が引越し祝いで新居パーティーをして、キャバ嬢三人と僕ら同僚三人で盛り上がっちゃって……これ以上は社外秘ですね(笑)」
──何て楽しそうな仕事なんだ!私もやってみようかな?
「ウチの面接受けてみます?オジサン好きのキャバ嬢もいますよ(笑)」
このあと立花さんは、明日も午前中に新しい顧客とアポがあるので引き上げていった。
「部屋を探している人がいたら紹介してください。悪いようにはしませんから」
再度そう言い残して……
この街がまるごと再開発でもされない限り……いやそんなことは決して実現しないから、立花さんの部屋探しの商いはこれからも繁盛するだろう。(ライター:JSR)