ラブホテルのフロント業務【ライターはBARにいる】
ここは都心の繁華街。とある雑居ビルでひっそりと営業するBAR
- 20年ほど前はイケメンホストだったというこの店のマスター。今やその身体はすっかり贅肉に包まれ過去の面影は伺えない。
しかしこの街でホストからバーのマスターと30年近くサバイブしてきた男、その人脈は広く歓楽街の仕事を生業とするさまざまなジャンルの人々が店にやってくる。
しがないフリーライターの私がネタ拾いの場所としてここに通っているのも、このマスターがいるから。この男、「こんな人知らない?」と聞いて知らなかった例(ためし)がないのだ。そんなマスターが今回紹介してくれたのは、清野さん(31歳)。
アルバイトで生計を立てている作家志望の男性だ。
文章を書いてお金を稼ぎたいという夢を持った清野さんは、私が歓楽街がらみ怪しいライターだと聞いて興味を抱いてくれたらしい。 作家志望の男性は、ラブホテルでアルバイト?
- 本サイト「ドカント」は男の仕事情報がテーマ。まずは清野さんに何の仕事をしているのか聞いてみた。
清野さん「僕は今ラブホテルで働いてます」
──ラブホテルの仕事というと、部屋の掃除とか?
「部屋の掃除ではなくて、フロント業務です」
ラブホテルのフロント?ラブホテルなんて最近とんとご無沙汰だが……フロントにスタッフがいた?部屋のキーを受付で渡す人のこと?
ラブホテルのフロント業務の仕事内容
- ──フロント業務とはどのような仕事ですか?
「うちのラブホテルは前払い制なので、お客さんがタッチパネルで部屋を選んだら受付で鍵を渡してお会計をします。延長の場合はチェックアウトの時に清算します。他には問い合わせの電話や部屋からの内線電話にも応対します。延長時間の確認もしますね。食事の注文が入ったら調理して届けたり……調理といってもレンジでチンですが……あとは清掃の指示や売上の集計もします」──結構忙しそうですね。
「21時から24時のピークタイムにはお客さんが次から次へと入ってくるのでバタバタします。あとは宿泊やサービスタイムのチェックアウトの時間も忙しいです。それ以外の時間、特に深夜から明け方は暇です。基本的にフロントに座ってるだけで力仕事とか一切ないので、体力に自信のない僕にはぴったりの仕事です」
──ジーっと座っているだけですか……
「うちのホテルは結構ゆるいんで、暇なときはスマートフォンをいじったりゲームしたりで時間を潰してます。気付いたら朝になってたり(笑) ホテルによってはフロント内に監視カメラを設置してスタッフがサボってないか会社でチェックしてるみたいです」
──ラブホテルの仕事といえば、部屋の清掃業務をイメージします。
「フロントスタッフと清掃スタッフで分業してるラブホテルが多いです。うちは清掃業務は外国人を雇っていて、タイやベトナム、ネパール人が多いです。以前働いていたラブホテルではフロント業務が暇な時間帯は清掃を手伝ってましたが、正直ちょっと嫌でしたね」
──清掃業務は嫌でしたか?
「お客さんによっては相当汚していきますからね……人にはそれぞれ性癖がありますから……いろんなものを撒き散らかしたり……詳しく話しましょうか?」
──いやお酒が不味くなりそうなので遠慮します(笑)
フロント業務の勤務時間は24時間?
──フロント業務の勤務体系を教えてください。「フロントの仕事は昼12時から翌日の12時まで24時間勤務です。そこから2日間(48時間)休み。3日に1度、月に10日の勤務です」
──ラブホテルのフロントはどこも24時間勤務なんですか?
「いや、最近のラブホテルは10時間などのシフト制も増えてますが、多くのラブホテルはいまだ24時間勤務が主流です」
──24時間勤務ってきつくないですか?
「いや逆に24時間仕事したら丸2日間休みなので楽ですよ。僕は作家志望なので執筆するための時間が欲しいので、シフト制で毎日10時間拘束されるよりはこのスケジュールのほうが合ってます」
月に10日の勤務で収入はどのくらい?
- 3日に1回、月に10日間仕事をするだけで生活はできますか?収入はどのくらいでしょう?◆清野さんの収入例◆
日給2万4千円で1勤2休(3日に1日の勤務)→月給換算24万円
※仮眠(休憩)時間が4時間→実働20時間で時給換算すると1,200円──月に10日間勤務で月給24万円。24時間勤務といっても仮眠(休憩)が4時間もあるんですね。
「仮眠や休憩の時間はホテルによって違います。以前に別のホテルで24時間働いていましたが、そこは忙しいときは休憩はほとんどなくて、月給19万円でした。だけど一緒に働いてたスタッフが辞める時に『ここは待遇が悪いから他に移ったほうがよい』って耳打ちしてくれて……それで今のラブホテルを見つけました。転職して給料や待遇もよくなって助かりました」
業界での経験が活きて収入や待遇が向上!
- ──前の仕事もラブホテルだったんですね。ラブホテルで働いた経験があって有利でしたか?
「どのラブホテルも経験は関係なく初心者でもすぐできる簡単な仕事です。ただ24時間勤務は特殊な体系なので、雇う側も未経験者を採用してすぐに『合わないから辞めます』となるよりも経験者のほうが勝手がわかってるので有利かもしれない」
──3日に1回の仕事で24万円だったら、休日や自分の時間を優先する人にとってはよい勤務スタイルですね。
「だから意外と人気の仕事なんです。特に40代~50代の主婦の方など女性に人気です。紹介で決まることが多いので求人サイトではあまり募集してないかも知れません」 ラブホテルってどのような人が働いている?
- ──ラブホテルで働いているスタッフについて教えてください。
「性別や年齢層はバラバラですね。うちのホテルは男性と女性の比率は4:6ぐらい、女性のほうが少し多いです。年齢層も20代から40代50代までとにかく幅広いです」
──部屋の清掃スタッフは外国籍の人が多いですか?
「フロントスタッフは窓口や電話でお客さんと会話があったりするので日本人です。清掃スタッフは外国人が多いです。時給は1,100円~1,200円です」
タイ・ベトナム・ネパール、多国籍のスタッフが集まって……
──国籍も幅広い。ちなみにどこの国の人がいますか?
「中国に韓国、ベトナム、フィリピン、バングラディシュ。最近ではタイやネパールの人も多いです」
──国際色豊かな職場!
「最近は中国が豊かになってきたので、ラブホテルのアルバイトから中国人が減ってます。しかし彼ら外国人には感心します。みんな勉強熱心で日本語もどんどん覚えるし仕事も真面目です。今の日本人はラブホテルの清掃なんて汚くて嫌だと敬遠しますけど、彼らは仕事と割り切ってテキパキやります」
──今の日本人とはハングリー精神が違う……
「性別や年代、さらには生まれた国もバラバラの人間が集まっているので、仕事が大変だと思うかも知れませんが、顔を合わせているとお互いのギャップがネタになって、割と仲良くなるんです」
フロントの「カメラ」から見えるものとは?
- ──ラブホテルのフロントは、あまりお客さんから気付かれない仕事ですね?
「そうです、大体が鍵とお金の受渡しをするところが小窓になっていて、お客さんからはフロントが見えない仕様になってます。最近のラブホテルはタッチパネルを操作してそのまま部屋に入って、帰りも部屋から自動精算機でチェックアウトできるので、誰にも顔を合わせずに利用できます。お客さんの立場になれば、フロントが目立たないラブホテルのほうがよいですからね。でもフロントからはカメラで全部見えてますけど」
──防犯カメラは設置してますよね。どんなお客さんが入ってくるか映像を見るのも楽しそう(笑)
「実際おもしろいです。超イケメンと派手なオバさんが入ってきて……これは枕ホストかな、とか(笑)うちのホテルは場所柄デリヘルに利用されてますが、めちゃくちゃ可愛いデリヘル嬢がいたりとか。でも見ていて一番おもしろいのは普通のカップルですね」
──普通のカップルですか?
「男性が女の子を酔わせて何とかホテルまで連れて来たけど、いざ鍵をもらう段階で女の子が正気に戻って『私帰る!』とか言い出しちゃって男が必死に説得するシーンとか……そんな人間模様が始まると見入っちゃいますね。さすがにつかみみ合いになったら止めますけど(笑)あと最近だと女の子のほうが堂々としてますね、さっさとパネルで部屋を選んで『さあ行くよ!』みたいな」──そんなドラマが……小説の題材になりそうですね。
「おもしろいお客さんやハプニングがあったらメモってます。働いてるスタッフのなかでも、他人と接触したくない事情を抱えたわけありの人もいて……ネタになりそうな興味深い話が聞けたりとか……」
フロント業務で大変なこと。トラブルとは?
──フロントの仕事で大変なことはありますか?
「たまにトラブルがあります。個室のなかでは何が起こっているか僕らにはわからないので……違法薬物を使う人とか暴力行為を働く人がいたり……」
──うわー大変ですね。対処方法は?
「他のお客さんに被害が及びそうな場合は警察に通報します。売上に影響しちゃうんで警察沙汰は勘弁して欲しいです(笑)お金を払わない人もいます。うちは前金制なので少ないですが……」
──無銭宿泊ですね。
「業界ではスキッパーって呼ばれてますが、十時間以上延長に延長を重ねて結局お金を持ってないとか……即通報案件ですね」ラブホテル、フロントの仕事内容を聞いて……
- ラブホテルのフロント業務。“24時間勤務”とは興味深い。
24時間集中して働いて自由になる時間を確保して、その時間を自分の夢のために使う。
最近の若者たちにマッチした勤務スタイルともいえる。それにしても、清野さんに何か彼に聞き忘れたような……何だっけ?
そうだ!彼の働いているラブホテルで女性ともめてネタにならないようにラブホテルの名前を聞こうと思ってたんだった……まあいい。これからラブホテルを利用するときは、フロントの向こうに彼が座っていると思ってジェントルに振舞おう……
(ライター:JSR)