キャバクラとセクキャバのボーイの仕事[後編]
■セクキャバのボーイの仕事は「ピンサロ」に近い!
- セイヤ君の言わんとする、キャバクラとセクキャバの接客内容の違いがわかってきた。
「セクキャバに来るお客さんにとっては、店で働くボーイなんて眼中にないし、むしろ顔を合わせたくない存在ってことだね」
私がそう言うと、セイヤ君は一度思案顔になってから口を開いた。
「セクキャバのボーイの仕事って、実はキャバクラよりも“ピンサロ”に近いですね」
「ピンサロって“ピンクサロン”のこと?」
私が声を上げると、彼は続けた。
「もちろんセクキャバには風俗店のような“ヌキ”はないですよ。でもセクキャバって店の雰囲気がピンサロに似ていてボーイの仕事も同じようなスタイルなんです」
私は以前に酔った勢いで入ったピンサロを思い返してみた。
ピンサロも店内は薄暗くて、高い背もたれや植え込みの‟仕切り”で席が区切られていた。
それもセクキャバと同様に、ボーイや他のお客さんから最中の姿態を見られないようにする方策なのだろう。「セクキャバも付け回し担当の男性スタッフがマイクで女の子に指示を出す。『●●ちゃん7番テーブル~7番テーブルへ~』みたいな……ピンサロと同じだ」
すると彼は笑いながら言った。
「さすが詳しいですね、あれもにお客さんに対する配慮です」
「どういうことなの?」
「キャバクラの場合、キャストが席を移る時は、ボーイが接客中の席まで呼びに行きますけど、あれだとお客さんとボーイが顔を合わせちゃうじゃないですか。それを避けるためにマイクで女の子を遠隔操作しているんです」
■セクキャバのボーイは「黒子」的役割!
「セクキャバのボーイの仕事は、裏方さんの役割だ」
セイヤ君は大きく頷いた。
「そう、“黒子”です。それに比べるとキャバクラのボーイはちゃんとお客さんと面と向かって接客をしますから、大きな違いです」
「たしかに、セクキャバやピンサロのボーイさんって、全然記憶に残ってないもんなぁ……キャバクラの場合は何度か通えば馴染みのボーイさんができたりするけど……」
■キャバクラとセクキャバで「トラブル」が多いのは?
- 接客スタイル以外にも違いがあると言う。
「セクキャバはキャバクラに比べると、お客さんとの“トラブル”が多い」
「トラブル?それってどのような?」
「セクキャバはその名の通り、“セクシーなサービス”が売りなんですけど、もちろん風俗店じゃないから、やれることとやれないことがあるんです。ほとんどのお客さんはそれを理解して遊んでくれますけど、たまに“勘違い野郎”がいるんです(笑)」
「いるだろうなぁ、止まんなくなっちゃう奴が……酔っ払ってるお客さんも多いからね」
「セクキャバのサービスはあくまで“寸止め”なので気持ちはわらんでもないですが(笑)女の子を守るのもボーイの仕事なので……そのようなトラブル処理をするのもキャバクラと違う部分です」
たしかに、今の時代キャバクラでガツガツ女の子に“お触り”する猛者なんて少ないだろう。
「他にも、キャバクラはキャストが1人で3人のお客さんを接客できますけど、セクキャバは女の子と“マンツーマン”じゃないと接客になりません」
「そうだよね、セクキャバに連れてってもらった上司と同じ女の子を共有するってのも嫌だし(笑)」
「だから、女の子のセッティングが遅れると怒り出すお客さんも多いです」
「『俺の女はまだか!』みたいな」
「そんなときはボーイがひたすらお客さんに謝ります……でも俺がセクキャバの仕事で学んだのは、ボーイの百の謝罪よりも3分のおっぱいタイムなんですよ!」
「すごい文句を言う奴も、おっぱいに埋もれたら静かになる(笑)」
「さっきまで鬼の形相で怒ってたおじさんが、『ありがとう』って満面の笑みで帰っていきますからね」
■キャバクラとセクキャバで「女の子の管理」が大変なのは?
- 「キャバクラでもセクキャバでも、男性スタッフはキャリアを積んでいくと担当するキャストが増えてきて、彼女たちの出勤管理やメンタルケアを任されます。その仕事はキャバクラの方が断然気を使います」
「セクキャバで働く女の子の方が、お客さんに体を触られたり肉体的サービスが多いから精神的なフォローが大変だと思うが?」
「それもありますけど、女の子もセクキャバで働くと決めた時点で、ある程度のサービス内容は覚悟して割り切ってますから」
セクキャバ嬢よりキャバクラ嬢に気を使う……その理由とは何だろうか?
「歌舞伎町を歩いていると、キャバクラの店前にキャストの誕生日祝いの花が並んでるのを見たことあります?」
「もちろん、バースデーイベントね」
「そうしたイベントもただのお祝いじゃなくて、厳しいノルマがあります」
「『何十人お客さんを呼べ!』みたいな?」
「そうです。だからバースデーイベントといっても、うれしいよりプレッシャーを感じるキャストの方が多いんです」
「女の子から営業メールやラインが来るもんなぁ」
■キャバ嬢はノルマのプレッシャー「メンタルケア」が大事!
- 一方、セクキャバのキャストは基本的に“ノルマなし”。その理由は?
「キャバクラで働くキャストはバースデーイベント以外にも、同伴、指名、売上などのノルマが決められています。ノルマが達成できないキャストは給料から罰金を引かれたり、時給を下げられたりします。彼女たちは日々プレッシャーに晒されてます。だからキャスト同士もライバル関係でいがみ合ったり、お客さんを取り合ったりしてシビアな世界なんです」
「簡単に高収入が稼げるわけじゃないんだ」
「毎月一定のお客さんにお金を落としてもらうためには、お客さんと毎日電話やラインをしたり、食事に行ったりゴルフに付き合ったり……お金にならない努力も要求されます。だからボーイは、そのようなプレッシャーに女の子が負けないで売上を立てられるように、常日頃から精神的なケアをします。キャストのモチベーションが重要になります」
セクキャバの女の子にはノルマのプレッシャーはないのだろうか?
「セクキャバには、そのようなノルマがほとんどないです。セクキャバの店先に誕生日祝いの花が飾られてるのって見たことあります?」
「そういえば見たことないかも……」
「セクキャバで高級ブランデーをボトルキープしているお客さんとか、見たことあります?」
「いや、高い酒を飲む必要ないだろうし……」
「ですよね。セクキャバでは売上ノルマや営業イベントを女の子に課さなくても、ちゃんと“おっぱいがお客さんを呼んでくれる”んですよ」
「出た、名言!」
■キャバクラとセクキャバの「給料」に違いは?
- キャバクラとセクキャバの仕事を語ってくれたセイヤ君に最後の質問をした。
「キャバクラとセクキャバでは、ボーイの給料に違いはある?」
彼はしばらく考えた後に言った。
「いや、特に違いはないです。どちらもアルバイトだと時給1,300円~1,500円スタート、正社員だと月給25万円~30万円スタート、そんなところが相場だと思います。お店により差はありますけど……」
「収入は大きく変わらない。どちらで働こうか迷ったときは仕事内容の違いを参考にして選べばよいんだね」
「そうですね、しっかりした接客を身に付けたい人はキャバクラへ……三度のメシよりおっぱいが好きな人はセクキャバへ……そんな感じですね、もちろん冗談っすよ(笑)」
「オレ……もう一回人生をやり直せるとしたら、絶対オッパブの店員になるけどなぁ……毎日見放題だぜ」
セイヤ君が帰った後、グラスを磨きながら誰に言うでもなくマスターが呟く。
三度のメシよりおっぱいが好きな奴がいたよ、こんな近くに……
私は苦笑いをしながら残りのバーボンを煽った。