風俗嬢のヒモになった理由とは?ビジュアル系バンドマンに聞く。

ここは都心の繁華街。とある雑居ビルでひっそりと営業するBAR

日中は人影もまばらなこの街も、夜になると俄然活気を帯びてくる。
私はいつものように馴染みのBARに顔を出した。

夜の10時。
この街にしてはまだまだ早い時間にもかかわらず店は混み合っていた。
わずかに空いていたカウンター席に腰を下ろし、まずは乾いた喉を潤そうとビールを注文する。
マスターはビールを私の前に置き、そのグラスを見つめたまま微動だにしない。
さすがは元ホスト、その“ごっちゃん体質”は死ぬまで治らないらしい。
私は半ば呆れつつもマスターにビールをご馳走して、今日も生き永らえたことに乾杯する。

「あの~、もう一杯バーボンもらっていいっスかぁ~」

二人でしばし世間話をしていると、隣の席からから甘ったるい男の声が聞こえてきた。
振り向いてみると、金髪のロン毛で顔面に多数のピアスを入れた男が不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた…。

■金髪+唇&耳&鼻ピアスの若者…、何者なのか?

この金髪君、なかなかのイケメンで一見ホスト風にも見えるのだが、耳、唇、鼻と顔中に入ったピアスが異様で、どこかホストとは異質の雰囲気を醸し出していた。
私はライターという仕事柄、様々な職種の人間と会う事が多く、相手の容姿や雰囲気から瞬時にその人となりを感じ取る能力は優れていると思っているのだが…。
この金髪君は一体に何者なんだろう?想像もつかない…。
マスターは金髪君のドリンク注文に愛想笑いで返事をすると酒を作りに行ってしまった。

そんな姿を見ながら、金髪君が言う。
「マスター、なんかオレには冷たいんスよねぇ~」

へー、誰にでも調子よく酒を奢ってもらおうとする、通称“ヤリマンマスター”にしては珍しいこともあるもんだ、と思っていると…。

「オレの彼女がこの店の常連なんでちょいちょい来るんスよ。 今日も彼女の仕事終わりをこの店で待ってるんスけどね…」
金髪君がそう続けたのを聞いて納得する。

「彼女はこの街で働いてるの?」
私が尋ねると、彼はニヤニヤと笑いながら顔を寄せてきて小声で言った。

「実は風俗で働いてるんスよぉ~」

■アーティスト・・・だと・・・!?

この街で、しかもこのBARでは風俗嬢なんて珍しくも何ともないのだが、彼の卑屈なニヤケ顔が気に障った。

「ところで君は何をしてる人なの?」
私は自分の予想が当たっているか確かめるために聞いてみた。

「俺っスか? 俺ミュージシャンっす。 バンドでヴォーカルやってて…。 まあ、まだ売れてないんスけどぉ~。 まぁしがないアーティストっすね(笑)」

「あー、それで彼女は風俗嬢だと…」

「まだミュージシャンとしては稼げてないんでぇ~、今は彼女に食わしてもらってるんスけどねぇ~」

ビンゴ!
この金髪君はミュージシャンにして自称アーティスト…。
そして私の予想通りに“風俗嬢のヒモ”ということであろう。

こんな街にいると水商売の女性達にくっついて生活をしている“ヒモまがい”の奴らは五万と見かけるが、いずれもあまり好きになれない人達だった…。

「あっそうなんだ…」

私がその後無言でグラスを傾けていると、彼なりにその沈黙の意味を探ったのであろうか言い訳がましく言ってきた。

「いや、でもオレ最近まで働いてたんスよぉ~」

■金髪ヒモゲルゲの仕事でも聞いてみるか…。

──へー、何の仕事してたの?

「“ビジュアル系のバー”で仕事してたんスよぉ~」

ビジュアル系のバー?なんだそりゃ?
仕方がない、金髪ヒモゲルゲと話すのは正直言って気が進まないが、そのビジュアル系バーとはどんな店なのか、そこでのバイトがどんなものなのか酒の肴に聞いてみるか…。

──“ビジュアル系バー”ってどういう店なの?

「一言でいえば“ビジュアル系バント”のバンドマンがスタッフをやってる飲み屋っス。 ビジュアル系バントってわかります?」

──“X JAPAN”とか? それぐらいしか思い浮かばないけど…。

「古いスねぇ~、他にも有名なバンドはあるんスけど…。 ビジュアル系はロックバンドのジャンルの一つで、ファンの女の子達は“バンギャル”って呼ばれてて、熱狂的なファンが多いんスよぉ~」

──そんなファンの女の子達がお店に来てくれると?

「そうっスね、ミュージシャンに直接会って話したり出来ますからね~」

──なるほど、ビジュアル系バーというのは、君みたいな若いビジュアル系のバンドマンがスタッフで、“バンギャル”の女の子達がお客さん、という感じなのかな?

「いや、そうとも言い切れないスね。 ビジュアル系バーにはざっくり分けると、2つのタイプに分かれるんスよ」

■ビジュアル系バーには2種類のタイプがある。

──2つのタイプというと?

「さっき“X JAPAN”の名前が出たけど、ビジュアル系にも歴史があるんで…。 店主が40代とか結構年喰ってて、バンド仲間やビジュアル系のファンの人達が“男女を問わず”お客さんとして集っているのが1つ目のタイプっす。 こういったお店は、ビジュアル系という特色を除けば、普通のバーと変わらないっスね」

──もう1つが、さっき話した“バンギャル”をお客とするタイプ?

「そうっスね、俺が働いてたのはこっちのタイプの店でしたね。 このタイプの店は、単に酒を飲むだけじゃなくて、バンドマンと一緒の時間を楽しむっていう感じっスね。 その分ドリンク代が高かったり、タイムチャージが付いたりして、普通のバーよりもちょっと料金が“割高”っスね。 店によっては、シャンパンとか高級なボトルを揃えてたりしますからね…」

──女性客にシャンパン、っていうと職種的には“ホスト”みたいだね?

と、私が何気なく言うと、金髪君の顔が急に曇った。
はて、なにか気に障ることでも言ったのだろうか・・・。

「いやぁ…、ホストと一緒にされるのはちょっとムカつくんスよね。 ホストなんて結局“色恋”で客を引っ張ってるだけじゃないスか! 俺らミュージシャンは、アーティスティックな部分でお客を呼んでるんスよね!」

あ、ふーん…。

こここまで話して、あのヤリマンマスターが彼に対して冷たい態度を取っている理由が何となく分かった。
何せマスターは元売れっ子のホストで、今も“夜の業界のご意見番”を自任している。
彼のホストを見下すような意識を敏感に感じたのだろう。

まあ、自称ミュージシャンだろうが自称アーティストだろうが、女性客を楽しませてお金を貰うという仕事なのだから、一体ホストと何が違うというのだろうか…と私は思ってしまう。

■ビジュアル系バーの時給など。その求人情報はどこに?

さて、金髪君の機嫌が悪くなったので、ここはホストとの違い云々の話は一旦止めにして、彼が働いていたという“バンギャル狙い”のビジュアル系バーの仕事について、もう少し詳しく聞いてみよう。

「え~、これ以上取材したかったら、ギャラとしてもう一杯飲んでいいっスかぁ~(笑)」

この“ごっちゃん体質”、マスター(元ホスト)と何ら変わらないじゃないか(怒)。

私が不承不承に了解すると、金髪君は平然と“ロイヤルサルート21年”のショット(2,500円也)を注文して旨そうに飲み始めるではないか!

おいおい、私はバンギャルだかパンパンギャルじゃねぇんだぞ! 怒りで震えながら話を再開する。

──ビジュアル系バーの仕事って、どこで見つけるの?

「バンドマンって“横”で繋がってたりするんで、そこからの口コミってパターンが一つ。 あとは店のホームページの求人欄だったり、求人サイトで募集してる店もあるんで、そこで見つけるって感じっスね」

──ビジュアル系バンドマンじゃないと働けないの?

「いや、ビジュアル系の恰好をしてれば基本OKっスね。 ちなみに、ビジュアル系好きの男性ファンを“ギャ男”って言うんスけど、ギャ男でもOKっス。 俺からすればそんなの“モグリ”っスけどね」

──給与体系はどんな感じなの?

「店によって違うけど、だいたい時給が1,100円~1,200円スタート。 それにプラスでドリンクバック、売上バックといった歩合が付きます。それに交通費支給、みたいな感じスかね」

──勤務時間は?

「店の営業時間は、だいたい夜8時とか9時から朝方までなんで、勤務時間はその間でシフト制って感じスね」

──勤務日数も?

「勤務日については、俺らのライブや練習があるのを店の方も理解してるから、週2日からの勤務でOKとかっスね」

──歩合給が付くんだ?

「そうっスね、俺が働いてたのは女の客“バンギャル”がバンドマンとの時間を楽しむ店だから、スタッフのバンドマン目当ての女と個人的な接客になるんスよね。 だから自分にお金を使ってもらったら、それに応じて“バック”(歩合)が付くという形っスね」

・・・なんだホストと同じじゃないか。

──歩合は具体的にどんなシステムなの?

「例えばお客にドリンクを貰った時のドリンクバックが200円。 自分のお客の売上金額に応じて10%~の売上バックとか、そんな感じっスね」

──お客さんを呼べば給料が上がっていくシステムだ。お客さんの女の子はどうやって集めるの?

「まずは自分とバンドの“ファン”っすね。そこがやっぱりベースですよ」

──それ以外には何か集客の方法とかある?

「TwitterやインスタとかのSNSは使いますね。バンドマン同士は“横”で繋がってて、そこからバンギャル達にもまたそれぞれ繋がっていってるんですよね。 だからSNSに『この店で働いてるよ~』とか『今日は出勤してるよ~』とか書き込むと、その繋がりの中で広がったりするんスよ。 それを見て店に来てくれたり…」

──ここでもSNSが活用されてるのか、便利な世の中だな…。

「他の店のお客も『一度あの店に行ってみたいな~』って思っていても、初めてだと行きづらかったりするじゃないですか、そんな時に知り合いの知り合いでも店に居ることが分かると全然違いますからね」

──そうやって結局君の客になると?

「そうそう(笑)。 店で初めて会ってその時にバンドの動画とか見せたりして、その後俺の“ファン”になってくれるのは、ミュージシャンとしてデカいんですよね」

■ビジュアル系バーでのアルバイト、メリットは?

今度はこの仕事をする上でのメリットについてもう少し聞いてみることにする。

──仕事をしながら本業のバンドのファンが増えるというのは嬉しいよね。 しかも歩合給で収入も増えると。まさに一石二鳥だね。

「そうなんスよ、もうひとつメリットがあるんスよね。 ファンが増える、ってトコから繋がってるんスけど」

──ほう、それは何?

「バンドってライブハウスで演奏するんですけど、わかります?」

──分かるよ、街で派手な女の子たちがズラッと行列を作ってるのを見かけると、だいたいそこはライブハウスだもんね。

「でもライブハウスに出演するにはチケットノルマがあるんスよ。 『最低何枚のチケットをバンドで売る』っていう」

──そんなノルマがあるんだ?

「例えば“2,000円のチケットを25枚(合計50,000円)売る”ノルマで、この時“5枚”しかチケットが売れなかったとすると、ノルマ合計50,000円-売れた5枚のチケット代10,000円=40,000円、4万円をバント側が自腹でライブハウスに払わないといけないんスよ」

──厳しい世界だね…。

「でもノルマをクリアして、それ以上のチケットが売れたらその分の金額の50~100%がバンドにバックされるんスよ」

──なるほど、ノルマを超えて売ったら逆にプラスになると。はは~ん、話が読めた。
そのライブのチケットをお店で捌くと、そういう事だよね。

「そう(笑)。ファンになってくれたお客にはもちろん、お客のバンギャルの繋がりにも『一緒にライブ行こうよ』って声を掛けてもらったりして…。 おかげで昔はノルマ分を売るのも一苦労だったのが、ノルマ超えのバック分で金が入るようになったんスよね。 そういう意味でもファンが増えるのはデカいんすよぉ~」

やっぱり金の話か…。ますますホストと同じじゃないか…。

■仕事で大変な事は・・・「嫉妬」!?

しかしバンド活動を続けるにあたって、お金の部分は避けて通れない切実な問題なのだろう。
話を聞いていると、ビジュアル系バンドマンにとっては良いこと尽くめのようなのだが、デメリットや大変ことはないのだろうか?

──ビジュアル系バーのアルバイトで、厳しかったことやキツかったことはある?

「まず“ビジュアル系”っていう言葉通り、見た感じがある程度サマになってないと厳しいスね。お客も付かないだろうし…。 それにプラスしてお客を惹きつける音楽性があれば言う事なしなんスけど…」

──仕事には最低限のビジュアル、プラス音楽性が必要だと? まあ“ビジュアル系”にハゲとかデブがいても流行らないだろうしね。

「後は、俺らの働いてる店はスタッフと女の子と個人的な接客が基本なんで…、そこからトラブルが起きたりはしますね」

──というと?

「嫉妬ですよ、嫉妬。 お客には“友達ノリ”の子も多いんですけど、やっぱり“本気”になっちゃう子もいるんで…。そんな女の子同士が店でバッティングしちゃったりすると最悪っスね。 コッチは平等に振る舞ってんスけど、すぐに『あの子の方が大事なんでしょ!』みたいな話になったりするんで…。 まあ、コッチも店に来て欲しくて普段から煽ってる部分もあるスけど(笑)。 実は、今付き合ってる彼女も大変だったんスよ…」

あんだよ、ホストと完全に一緒じゃないか。
そんな事を言うとまた彼が不機嫌になるので黙って話の先を促す。

「今の彼女もよく店に来てくれてたんスけど…。 何度か他の、俺に惚れてる女の子とバッティングしたらメッチャ嫉妬しちゃって…。 『もう店を辞めて!』っていう話になったんスよ」

──えっ、それで君はお店を辞めたの?

「ええ、彼女が生活を完全にサポートしてくれるって話だったんで、乗っちゃいました(笑)。 俺もちょっとラクしたかった…、ってか、曲作りに専念したかったんスよねぇ~」

──でもお店を辞めちゃうと、ライブのチケットが売れなくなっちゃうんじゃないの?

「他のお客とは今もSNSで繋がってるんで大丈夫ス。 そいつらには『今はバンドに専念する』って言ってあるんで(笑)。まあ今の彼女ともいつまで続くかわからないから、関係が終わったらまた店で働いてファンを増やしますよ!」

このようにして“ビジュアル系バー”というものがどのような店か、そして彼がどのようにして“ヒモ”に成り果てたのかが分かったのだった。

■“ミュージシャン”は、女性にとって永遠の憧れ…。

「もっと“ビジュアル系”の業界について知りたくないっスか? もう一杯奢ってくれたら話しますよ(笑)」

──いや、もう充分に分かったから大丈夫っス。

ちょうどその時、金髪君の彼女が仕事を終えて店にやって来た。
色白で黒髪、小柄で細身の彼女は“美少女”と形容されるであろう清楚な若い女性だった。
彼女はカクテルを飲みながら、世話女房のように金髪君に声を掛け、やがて二人で手を繋いで帰って行った。
支払いはすべて彼女が済ませたことは言うまでもない。

二人が店を出ていくのを眺めた後、カウンターの少し離れたところに立っていたマスターを見ると、こちらに向かって肩を竦めるポーズを取った。

それにしても“ミュージシャン”とか“アーティスト”とか、そういった人種にどうして世の女性達は弱いのだろうか…
そういえば私がまだ学生だった頃、友人達はただ女にモテたい、それだけのためにバンドを組んでいたっけ…。

金髪君にどれだけの音楽性があるのか私には知る由もないが、そんな才能の有無というよりも、“ミュージシャン”や“アーティスト”といった種の言葉には、その言葉の響き自体に女性を惹きつける幻想的な“何か”があるのではないかと思えてしまう。

そしてそういった幻想がある限り、“ビジュアル系バー”なるものも、ホストクラブとは別ジャンルとして女性客を集めていくのだろう。

しかし、ビジュアル系のバンドマンがそんなにモテるのならば俺もやってみようかな…。
最近めっきり薄くなり始めた我が頭髪を触って苦笑いをしてみた…。