風俗業界への転職。編集プロからデリヘルの男性スタッフへ![ライターはBARにいる]
ここは都心の繁華街。とある雑居ビルで営業するBAR
深夜2時にもかかわらずBARは混みあっていた。
いつもの常連客に混じって、一見らしき客の姿もちらほら見受けられる。
カウンターの中でせっせと酒を作るマスターもホクホク顔だ。「お久しぶりです」
カウンターに1席空いているのを見つけて座った私に、ふいに後ろから声が掛かった。
振り返ると、そこには今晩待ち合わせしていた男性、江藤さん(仮名)が立っていた。■6年ぶりの再会…。この男性の仕事は?
- 実は江藤さんとはだいぶ久しぶりの再会である。
彼はその昔、編集プロダクションの編集者(雑誌やスポーツ新聞などで記事を書く仕事)であった。
「久々ですね、いつ以来だろうと思い出してみたら確か6年ぶりくらいですね」「江藤さんが“〇〇〇”(編プロの名前)を辞めてから会ってなかったですからね…」
そう、江藤さんは今は編集プロダクションの会社を辞めて‟別の”仕事をしている。「‟〇〇〇”(編プロ)は、今やすっかり縮小しちゃって、社長が一人でやってるって話ですよ」
確かに、その編プロの名前はここ数年とんと聞かなくなった。
出版不況ここに極まれり、といったところか…私のような貧乏ライターには切実な問題だ…。「江藤さん、今は編プロは辞めて…」
そこまで言いかけると、彼は私の耳元に顔を近づけて小声で言った。
「編集からは足を洗って、今は“デリヘル”で働いてます」そう、江藤さんは現在、編集プロダクションの仕事を辞めて‟風俗業界”に転職していたのである。
私は共通の知人から江藤さんの転職話を聞き、‟これはネタになるぞ”と今宵のセッティングをしたのである。 ■編集プロダクションから、風俗業界への転職!
- 「江藤さんが風俗業界へ転職ですか? 何かイメージが沸かないですね(笑)」
こういったらアレだが、江藤さんの編プロ時代の印象といえば、ボサボサ頭に無精髭、いつもヨレヨレのデニム姿で昭和の編集人といった風情の男性であった。
私の知っている風俗業界の住人(ギラギラしている男達)とは全く反対側で生息しているような人だったからだ。
この6年間で、彼の人生はどのように変化していったのだろうか。 ■なぜ“編集プロ”の仕事を辞めたのか?
- 編集プロダクションから風俗業界への転職、そのきっかけは何だったのか。
働いていた編プロが業務縮小したという話を聞いているが、編プロの仕事を辞めることになった顛末から聞いてみる。――編プロを辞めたのは、人員整理(リストラ)された感じだったんですか?
そうですね。最近ではご存知の通りインターネット全盛で、本や雑誌は軒並み休刊や廃刊状態。それで年々仕事が減っちゃって5年程前に社長から『今後、君には外注(フリー契約)でライターの仕事を発注する』と言われたんですよ。 でも、そんな仕事を僕に振ってくれる訳もないしただのリストラですよ。
編プロの社長が仕事が減って従業員をリストラするために言い逃れをしたということか…身につまされる話である。
しかし江藤さん、この編集スタッフの仕事に未練はなかったのだろうか?――その編プロは無理だとしても、別の会社に移って編集の仕事を続けようとは?
まあ、実際に編集の仕事についてはやりがいを感じていましたけど、待遇や労働環境とか…そういうところに嫌気が差してきちゃったんですよ。
まあ、言わんとしていることは非常に分かるのだが…。
■“安月給”に“長時間労働”の過酷な職場。
- 僕の場合、給料は額面で月給15万円。手取りだと12万円ちょっと。 それで月に10日近くは徹夜をして、休日といえば月に2、3日でしたから…。 一度計算をしてみたら、何と1日の平均労働時間が18時間を超えててましたよ。 時給に換算したら一体いくらだよって話ですよ。 そりゃあ大手出版社の編集部だったらもっと給料もいいんでしょうけど、その辺の編プロに移ったところで似たり寄ったりですからね。
――聞いてるコッチも切なくなりますね。
だからリストラされた時、この業界はもういいかなって考えちゃったんですよ。
その気持ち、今も業界の片隅に身を置く私にもよ~くわかる。
クリエイティブな仕事をしたい!
マスコミ業界で働きたい!
有名ライターになりたい!
今でも夢や希望を持って編集業界に飛び込んでくる若者は多い。
しかし悪質な編プロの経営者などは、その夢をエサに過酷な条件を突きつけてくる。
そしてその若者の多くは、彼のような悲惨な現実を目の当たりにして散っていくのだ。 ■転職のヒントは取材先にあった!
- こうして、編プロから足を洗った江藤さん。
しかし、次に選んだのは何故に風俗業界の仕事だったのだろうか?例えば、長時間労働に嫌気が差したのであれば、次は勤務時間は9時~5時で土日休み、みたいな“カタギ”の仕事を探しそうなものだが…。
――転職先に何故‟デリヘル”といった風俗業界を選んだのですか? 風俗店も勤務時間が朝から夜まで長時間というイメージなんだけど…。
嫌気が差したのは勤務時間の長さというより、その時間に見合った給料が貰えなかったところなんですよ。 何故デリヘルだったかというと、編プロ時代にアダルト雑誌の風俗コラムの連載を担当していて、取材で風俗店を回っていた時に、ある店長さんと話が盛り上がって風俗店の男性スタッフの仕事について色々教えてもらったんですよ。
――取材先が風俗店だったんですね。
お客さんへの対応や女の子の管理など、業務は多岐に渡りハードだし、勤務時間も結構長くて体力勝負な部分もあるけど、とにかく稼げる仕事だと…。その店長の給料額も聞いたんですけど、“月収200万円オーバー”でしたよ。
――そりゃスゴイ!確かに風俗業界の仕事は高収入ですよね。
ちなみにその取材先っていうのが、今働いてるデリヘルのグループなんですよ。
そう言って彼が口にしたグループ名は、風俗業界では知らぬ者のいない大手デリヘルグループの名前だった。
――なるほど、編プロを辞めてそこの店長さんに連絡して入社したと…。
すると、江藤さんは首を振りながら言った。いや…。 今の店で働く前にワンクッション挟んでるんですよ。
■プライドが邪魔をして人に頼らず転職先を探すことに…。
- ――ワンクッション? どういうことですか?
今の店で働く前に別の店で働いてたんです。
――何故すんなりそのお店に行かなかったのですか?
そう言うと、彼は頭を掻きながら続けた。
いや~、プライドが邪魔したんですよね。――プライド?
編プロの社員って、取材の時には『週刊○○です』とか掲載する有名な雑誌の名前を口にするんです。 それもあって自分がマスコミの一員みたいに勘違いしちゃっていたんですよね(笑)。 そんなプライドがあるから、取材先に『実は編プロをクビになりまして、つきましてはお仕事を…』なんて連絡するのが恥ずかしくて出来なかったんですよね…。
正直気持ちはわかる…。話の先を促すと彼は言った。
それに、その頃は風俗業界の事もよく分かってなかったんで、どこで働いても同じようなもんだろうと…。 高収入求人サイトを見て、あるデリヘルに応募したんですよ。編プロと違って風俗業界は人手不足なのか“即採用”でした。 ■そして風俗業界に転職、しかし・・・。
- こうして江藤さんは、風俗業界にその一歩を踏み出した。
――で、どうでした?初めて経験した風俗店の仕事は?
と尋ねると、彼は顔をしかめながら言った。「それが…面接では月給25万円プラス店の売上に応じて賞与を支給。という条件だったんですけど、そのお店はお客さんが全然入ってなくて…。 結局賞与は一度も出ませんでした。また勤務時間は1日12時間のシフト制、ということだったんですが、人手不足で、実際には店に泊まったりして、1日17~18時間労働はザラでした。しかも休みは月に3、4日という有様で…。
――えええ、それってどっかの業界の話と似てませんか?
私がそう言って苦笑すると彼はため息をつきながら言った。そうなんです、編プロと一緒です。 そんな状態だから男子スタッフの入れ替わりがとにかく早い! 新人の男子スタッフが入ってきても、すぐに別の誰かが辞めちゃうから残っている人間の仕事量はいつまで経っても変わらなんですよ。
――完全に悪循環。そんなブラックな店すぐに辞めちゃえばいいのに!
そうなんですけど、編プロ時代の悪いクセで逆境に耐えるというか、キツイ仕事にも慣れちゃって結局続けちゃうんですよね、“ドM体質”ですね。
■そこは“ブラック”風俗店だった・・・!?
- ――そんなんじゃ、ブラック企業にうってつけの人材じゃないですか!
それは自分でも分かってるんですけどね。でも結局その店で1年以上働いちゃいました。その間昇給や昇格も一切ナシで…。
――きつい環境の中で黙って仕事をこなすスタッフを見て、評価するどころか逆に『コイツは給料を上げなくても働く』とか思ってたんでしょうね、ひどい店だなぁ。
全然お客さんが入ってなかったんで給料が上がらないのも仕方ないかと思ってたんですが…。
これでは、“ブラック風俗店”の思うツボである。
■救いの神が登場。大手デリヘルグループへ転職!
- ――それでよく店を辞める決断が出来ましたね。何か契機があったんですか?
自分で決断したというか…電話が来たんですよ、以前取材で盛り上がった例の店長から…。
――おっ、ここで運命のテレフォン!
『またウチの店取材してよ』と、まだ僕が編プロで仕事をしてると思っていた店長は、お店の取材を依頼する為に電話をしてきたんですけど。今の自分の境遇を正直に話してみたら、会って話そうということになって…。
――それで?
そこで給料や勤務時間、待遇なんかを話したら、『そんな店は今すぐ辞めてウチのグループに来いよ』と言ってくれて…。
■転職したデリヘルグループの給料や待遇は?
こうした“運命の出会い”もあって、江藤さんは何とかブラック風俗店から脱出し、大手デリヘルグループへの転職を果たした。
――新しいお店に移って、給料や待遇はどのくらい変わりましたか?
江藤さんは、転職の際にお店から提示された給料を始めとする募集条件について説明してくれた。
給料:月給30万円(初任給)
プラス売上に応じて歩合給あり。
勤務時間:1日12時間のシフト制(残業なし)※休憩3時間
休日:週休2日制
待遇:社会保険完備(雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金保険)
※昇給・昇格随時――これはブラック風俗店とは比べものにならない高待遇! 実際に働いてみてもその条件通りだったんですか?
ええ、前の店とは違って求人内容に嘘はありませんでした。 入店して約1年程で役職が付いて給料がアップして、3年たった今では、“幹部候補”に昇格して、基本給40万円プラス売上歩合で月給50万円以上は貰ってます。
――回り道もしたけど結果的には大成功の転職でしたね。
江藤さんとはこの後、転職の話もそこそこに朝まで編プロ時代の思い出話で盛り上がった。
辛かった時代も、時が経てば笑い話になるものだ。
が、それも今の仕事が充実しているから出来ることだろう。そして、この日のように朝まで飲めるのも、彼のお店が“週休二日制”だからである。
もちろん大手風俗店グループのすべてが高待遇なわけではないだろうし、小規模店でも働き甲斐のあるお店は多いと思う。
いずれにせよ、同じ仕事をするのであれば少しでも条件や待遇のいい店で働く方が良いに決まっている。
私のように、才能の乏しい凡人達の武器は“働く時間を売る”しかないのだから…。幸いなことに、今の時代は男性向け高収入サイトに数多の求人募集が掲載されている時代である。
そこには、多くのお店の求人要項が詳細に記載されている。
そこで情報収集をして吟味し、面接では納得いくまで条件を確認する。
そんな風にしっかりお店選びをした方が良いだろう。「今日は僕が払いますよ。久々の再会ということで…」
『お!ラッキー』と思っているのを気取られないようにしている私をよそに、彼は当然のように大きな財布を出すとマスターに声を掛けた。そして帰り際に私の肩に手を置いて言った。
「今度ウチのお店を取材して下さいよ(笑)」なかなか抜け目のない男である。