風俗嬢のヒモになった理由をV系バンドマンに聞く。
ここは都心の繁華街。とある雑居ビルでひっそりと営業するBAR
- 夜の10時。この街にしてはまだまだ早い時間にも関わらずBARは混んでいた。
空いていたカウンター席に腰を下ろし、まずは乾いた喉を潤そうとビールを注文する。「もう一杯バーボンもらっていいっすかぁ~」
隣の席からから男の声が聞こえてきた。振り向いてみると、金髪ロン毛で顔面に多数のピアスを入れた男性が笑みを浮かべてこちらを見ていた……
■金髪ロン毛にピアスの若者……何者?
- この金髪兄さん、一見ホスト風にも見えるのだが、耳、鼻、唇と顔じゅうに入ったピアスのせいで、ホストとは異質の雰囲気を醸し出していた。
一体何者なんだろう?
マスターは金髪兄さんの注文に愛想笑いで返事をすると酒を作りに奥へ行ってしまった。「マスター、オレに冷たいんすよねぇ~」
そんな姿を見ながら金髪兄さんがつぶやく。へー、誰にでも調子よく酒を奢ってもらう、通称“ヤリマンマスター”にしては珍しいこともあるもんだ……
「オレの彼女がこの店の常連なんでちょいちょい来るんすよ」
「彼女はこの街で働いてるの?」
私が尋ねると、彼はニヤニヤと笑いながら顔を寄せてきて小声で言った。「実は風俗で働いてるんすよぉ~」
■アーティスト……だと!?
- この街で、しかもこのBARでは風俗嬢など珍しくも何ともないのだが、彼のニヤケ顔が気に障る。
──ところで君は何をしてる人なの?
私は自分の予想を確かめるために聞いてみた。「俺っすか? ミュージシャンです。バンドでヴォーカルやってて……まだ売れてないんすけど。しがないアーティストっすね(笑)」
──それで彼女は風俗嬢だと……
「まだ音楽で稼げてないんで、今は彼女に食わしてもらってるんすよ」
ビンゴ!
この金髪兄さん(トシさん・仮名)は、ミュージシャンにして自称アーティスト……そして予想通り“風俗嬢のヒモ”。
この街には水商売の女性にくっついて生活をしている“ヒモまがい”の奴らは五万といるが…… ■トシさん(仮名)28歳のヒモ生活
- ──そうなんだ……ってことは彼女に生活費を出してもらってるの?
「生活費ってか、彼女の部屋に同居してるんで家賃はかからないし、食費も彼女持ち、必要なものは彼女のカードを使ってインターネットでポチッて……あとは毎月何万か小遣いもらってる感じっすね(笑)」
──完全なヒモ……状態というか……
「いやぁその呼び方はよくないっすね、彼女は俺の音楽活動を応援してくれるスポンサーなんです」
──バンド活動の応援スポンサーってこと?毎月の小遣いはどのくらいもらってるの?
「毎月決まった金額じゃないっすよ、そのときに応じて5万~10万とか出してもらって……だいたい月20万くらいかな?彼女は月に80万~100万とか稼いでますから」
──すごい金額……どのくらいヒモ……いや、付き合ってるの?
「一年ちょいですね、この生活にも飽きてます(笑)」
──飽きるとか……
「彼女がソクバッキー(束縛する人)なんできついんすよ。スマートフォンにGPSも入れられてるし、遊びに行くとうるさいんすよ」
──小遣いもらってるんだからちょっとは我慢しましょうよ。
「いや元々は彼女から頼まれてこの生活をしてるんです」
──彼女のほうから『面倒を見させて』ってお願いされたと?
「そうっすよ、一年前は働いてたんですから」
■金髪ヒモゲルゲの前職を聞いてみる……
- ──何の仕事をしていたの?
「“ビジュアル系のバー”で働いてました」
ビジュアル系のバー?なんだそりゃ?金髪ヒモゲルゲと話すのは気が進まないが、そのビジュアル系バーとは一体どのような店なのか酒の肴に聞いてみる……
──ビジュアル系のバーってどういう店なの?
「“ビジュアル系バント”のバンドマンがスタッフをやってる飲み屋です。ビジュアル系バントってわかります?」
──X JAPANとかGRAYとか?
「古いっすね、他にも有名なバンドはいっぱいで、ゴールデンボンバーもそうです。V系(ビジュアル系)はロックのジャンルの一つで、ファンの女の子は“バンギャル”とか“バンギャ”って呼ばれていて熱狂的なんですよ」
──ビジュアル系バーは、V系のバンドマンがスタッフで、バンギャルがお客さんなんだ?
「そのパターンが多いです。普通にビジュアル系のファンが“男女問わず”お客さんとして集っている店もありますけど……俺が働いてたのはバンギャルの客がメインで、単に酒を飲むだけじゃなくて、バンドマンと一緒の時間を楽しむノリです。普通のバーよりも料金が“割高”で……ドリンクが高かったりタイムチャージが付いたり、店によってはシャンパンや高級ボトルを揃えてます」
──女性客にシャンパンか……仕事的には“ホスト”みたい?
と、私が何気なく言うと、トシさんの顔が曇った。はて、なにか気に障ることでも言ったのだろうか……
「いやぁ、ホストと一緒にされるのはちょっと違うんすよ。ホストは結局“色恋”で女を引っ張ってるじゃないすか?俺らは、アーティスティックな部分でお客を呼んでるんすよ!」
あ、ふーん。
女性客を楽しませてお金を貰う仕事だから、ホストと同じじゃないかな…… ■V系バーの給料はどうなっているのか?
- さて、トシさんの機嫌が悪くなったので閑話休題、彼が働いていたバンギャル狙いのV系バーの仕事をもう少し詳しく聞いてみよう。
──V系バーの仕事はどこで見つけるの?
「バンドマンって“横”のつながりが強いので、知り合いからの紹介ってパターンが一つ。あとは店のホームページの求人で見つけるって感じです」
──V系のバンドマンじゃないと働けないの?
「いや、ビジュアル系の恰好をしてればOKっす。ちなみに、“ギャ男”(V系好きの男性ファン)でもOK」
──勤務時間は?
「営業時間は夜8時や9時頃から朝方まで。勤務時間はシフト制です。勤務日は、俺らのライブや練習日を店も理解してるから、週2日からOK」
──給料はどのような感じ?
「時給1,200円~1,300円スタートで、ドリンクバックや売上バックの歩合が付きます」
──歩合給がプラスされる?
「そうっすね、バンギャル(女性客)がメインだから、バンドマン目当ての女と個人的な接客になるんですよ。だから自分の指名で金を使わせたらバックが付きます。例えば、ドリンクバックが200円。自分の指名客の売上金額に応じて10%~の売上バック、そんな感じです」
えーますますホストと同じじゃないか……
──店に来てくれる女の子はどうやって集めるの?
「まずは自分とバンドの“ファン”ですね。そこがベースで、他にはTwitterやInstagram、TikTokなどのSNSを使います。バンドマンもバンギャルもつながってるんで。SNSに『この店で働いてるよ~』とか『今日は出勤してるよ~』とか書き込むと、そのネットワークで拡散されて店に来てくれるんです」
──SNSを活用して自分の客を増やしていく。
「ライブだけでなく店でファンが増えてくれるのは、ミュージシャンとしてデカいんですよ」
■V系バーのアルバイト、メリットは?
- ──アルバイトをしながらもバンドのファンが増えるのはうれしいよね。しかも歩合で収入も増えると。まさに一石二鳥だね。
「もうひとつメリットがあって……バンドってライブハウスに出演するときはチケットノルマがあって……『最低何枚のチケットを売る』っていう」
──そんなノルマがあるんだ?
「例えば、“2千円のチケットを25枚(合計5万円)売るノルマ”で、“5枚”しか売れなかった場合、ノルマ5万円-1万円(売れた5枚のチケット代10,000円)=4万円、バント側が自腹で4万円をライブハウスに払わないといけない」
──厳しい世界だね……
「でもノルマをクリアしてそれ以上のチケットが売れたら、その分の50%~100%がバンドにバックされます」
──なるほど、ノルマを超えたら逆にプラスになると。はは~ん、話が読めた。そのライブのチケットをお店で捌くんだ?
「そうっす!ファンになってくれたお客にはもちろん、バンギャルのつながりにも『一緒にライブ行こうよ』って声を掛けてもらって……昔はノルマ分も一苦労だったのが、V系バーで働いてからはノルマも余裕でクリアして金が入るようになりましたね」
■風俗嬢のヒモになった理由は……嫉妬!?
- しかしバンド活動を続けるにあたって、お金の部分は避けて通れない切実な問題なのだろう。話を聞いていると、バンドマンにとってはよいこと尽くめのようだが、デメリットや大変ことはないのだろうか?
──V系バーのアルバイトでキツかったことはある?
「店ではスタッフと女の子の個人的な接客が基本なんで……そこからトラブルが起きたりしますね」
──というと?
「嫉妬ですよ、嫉妬。お客には“友達ノリ”の子も多いけど、やっぱり“本気”になっちゃう子もいるんで……女の子同士が店でバッティングすると最悪っすね。コッチは平等に振る舞っても『あの子のほうが大事なんでしょ!』って……俺も店に来て欲しくて煽ってる部分もあるけど(笑)今付き合ってる彼女も大変だったんすよ……」
あんだよ、ホストと完全に一緒じゃないか。
そんなことを言うとまた彼が不機嫌になるので黙って話の先を促す。「彼女も店で何度か他の……俺に惚れてる女の子とバッティングしてメッチャ嫉妬しちゃって……『もうお店を辞めて!』っていう話になったんです」
──あーそれでお店を辞めたの?
「ええ、彼女が生活を完全にサポートしてくれるっていうんで、乗っちゃいました(笑)俺もちょっと楽になりたかった……ってか、曲作りに専念したかったんですよ」
──お店を辞めちゃうと、ライブのチケットが売れなくなるのでは?
「他の女の子とは今もSNSでつながってるから大丈夫。そいつらには『今は音楽に専念する』って言ってあるんで(笑)今の彼女といつまで続くかわからないから、関係が終わったらまた店で働いてファンを増やしますよ」
なるほど……ビジュアル系バーがどのような店か、そして彼がいかにしてヒモになったのか……がわかった。
■“ミュージシャン”は、女性にとって永遠の憧れ…。
- ちょうどその時、トシさんの彼女が仕事を終えて店にやって来た。
小柄で細身の彼女は黒髪の似合うガーリーな若い女性だった。彼女はカクテルを飲みながら、世話女房のようにトシさんに声をかけ、やがて二人で手をつないで店を出て行った。
支払いはすべて彼女が済ませたことはいうまでもない。二人が店を出ていくのを眺め、カウンターの少し離れたところに立っていたマスターを見ると、こちらに向かって肩を竦めるポーズを取った。
それにしても、ミュージシャンとかアーティスト……そういった人種にどうして女性は弱いのだろう……
しかし、ビジュアル系のバンドマンがそんなにモテるのならば俺もやってみようか……
最近めっきり薄くなり始めた我が頭髪を触って苦笑いをした……(ライター:JSR)