キャバクラの黒服が語る全国“夜の街”事情
■ここは都心の繁華街。とある雑居ビルで…
- ひっそりと営業しているいつものBAR。
千鳥足で店に辿り着いたのは深夜2時。
店内は、カウンターの奥にキャバクラのアフターとおぼしき客とキャバ嬢の二人連れ。
そして手前に男性が一人座っているだけだった。
座した私のことなど気付かぬ様子で、マスターは横を向きじっと何かを見つめている。
何かと思ったら、その視線の先は奥にいるアフター中のキャバ嬢だった。
さすが元カリスマホストにして、無類の女好きとして知られたマスターである。
だが、そのキャバ嬢はマスターの視線を釘付けにするのも納得の“イイ女”であった。すると不意に反対側の耳元で囁き声が…。
「東京のキャバ嬢はレベルが高いわ~。ありゃあ指名トップクラスですね~」驚いてそちらを向くと、カウンターの手前に座っていた男性客が、知らぬ間に私の隣に座っていた。
年の頃は30代半ばあたり、長めの髪にソフトパーマをかけたオシャレな感じ。
マジメな勤め人という雰囲気ではないが、ちゃんとスーツを着こなしている。「ま、まあ、そうだね…」
適当に相槌を打っていると、マスターがすかさず声を掛けてきた。「ああ、会ったことなかったっけ? 彼はキヨシっていうんだよ。 日本全国の“夜の街”を飛び回って仕事をしている“旅ガラス”稼業なんだよね」
■旅ガラス稼業?キヨシ君の職業とは?
- 旅ガラス?全国の夜の街を回ってる?まさか全国のスーパー銭湯を回っている旅役者とか?
私が問うと、キヨシ君は笑いながら否定した。「いやいや、ただブラッと寄った街で仕事を探して暮らしている“根無し草”ですよ~」
「そうなんだ、一体どんな仕事をしてるの?」
「前はパチンコ屋の店員や風俗店の従業員とか色々とやってましたけど…ここ2、3年は、ずっとキャバクラの黒服ですね」
なるほど、キャバクラの黒服か…。
黒服とは、華やかなキャバ嬢と一緒にキャバクラで働く男性スタッフのことで、“ボーイ”などとも呼ばれている職業のことだ。 ■キャバクラの黒服、その仕事を選んだ理由とは?
- それにしても、なぜ全国の歓楽街を渡り歩いてキャバクラの黒服をしているのだろうか?
それについて問うてみる…。「なぜキャバクラの黒服かというと… “年齢・学歴・経歴不問”で、正社員だと“月給25万円~30万円”が貰えることですね」
「採用のハードルが低くて給料が良いってことか…」
「今まで色んな店で働いてきたので経験は充分なんですが、それを言っちゃうと逆に怪しまれるんで、面接の時は“業界未経験”ってことにしてますね、履歴書がいらない店も多いんで(笑)」
「そんなお気軽な…」
「でも一番の理由は…“寮完備”の店が多いことですね。 だから初めて訪れた地方でも“宿代ナシ”ですぐに稼げるんすよ」
「日本各地を転々としている身じゃ、部屋を借りるのも大変そうだもんね…」
■黒服(ボーイ)の求人情報はどこで探す?
- そんなキャバクラ従業員の仕事は、どうやって見つけているのだろうか。
「行った先々の土地で、高収入求人サイトやキャバクラサイトの求人で探しますね。今のキャバクラ業界は、女性キャストも黒服も不足気味なんで仕事はすぐ見つかりますよ」
しかし、キャバクラの黒服の仕事をしながら全国の歓楽街を回っているというのは、やはり珍しい。
具体的にどのような“街”で働いているのか? それについて問う。「各地方の主要都市ですね。 札幌・東京・名古屋・大阪・福岡とか…。それぐらいの大きい街だとキャバクラも多いから仕事も探しやすいんですよ」
「そうやって飛び回ってたら、それぞれの街の水商売事情には詳しいだろうね」
「モチのロンっすよ」
キヨシ君は各地方の夜の街やキャバクラの事情について語ってくれた。 ■全国各都市の“夜の街”キャバクラ事情
- 【北海道>>札幌】
- 北海道の道都、札幌の夜の街と言えば“すすきの”。
実際には“すすきの”という住所は存在していないが、地下鉄南北線“すすきの駅”を中心とした中央区にある繁華街の通称で、“ススキノ”とも“薄野”とも表記される。日本三大歓楽街の一つにも数えられるこの街は、飲食店やキャバクラ、風俗店など様々な業種の店舗が密集しており、ビルによってそれらの業種がフロアごとに混在するなど、カオス的にひしめきあっているのが特徴となっている。そんな“すすきの”で注意しないといけないのは“キャバクラ”という業種名だ。
『キャバクラはキャバクラでしょ?』と思われるかもしれないが、そんな人が“すすきの”のキャバクラに行くと…。
あらビックリ、セクシーな女の子がいきなり膝の上に跨ってきて…『ええっ!キスやボディタッチもOKってどういうこと!?』という歓喜の声を上げることになる。そう、“すすきの”では“キャバクラ”というと、他エリアでいう“セクシーパブ(セクパブ)・おっパブ”と呼ばれるタイプのお店を指すのだ。
そして他エリアで“キャバクラ”と呼ばれるお店は、“ニュークラブ”という業種名で呼ばれている。ちょと紛らわしいが、それもすすきのルール。
そんな“ニュークラブ”は、(すすきのルールの)キャバクラと共に盛り上がりを見せており、その業界規模は東京以北では最大となっている。 - 【関東>>東京】
- 言わずと知れた日本の首都、東京。数多くの夜の街があり、それぞれが各地方の代表的な歓楽街並みの規模を持つといっても過言ではない。
それら東京の夜の街についてはすでによくご存じだと思うが、ここでは“キャバクラ街”という視点で、3つの歓楽街を説明しておきたい。 - ① 新宿・歌舞伎町
- 日本三大歓楽街に数えられる、新宿区の“歌舞伎町”。
東は明治通り、西はJR中央線、南は靖国通り、北は職安通りに囲まれたエリア。
キャバクラ、セクシーパブなどをはじめ、風俗店やホストクラブなど、あらゆるナイトレジャー産業が集結している。
かつては、“アジア最大の歓楽街”や “眠らない街”などと謳われた。
2000年代以降は、大規模な摘発や浄化作戦が行われて往時の勢いは影をひそめたが、キャバクラについては今も高級店から格安店まで様々なジャンルの店が数多く揃い、その知名度や店舗数から“日本一”のキャバクラ街といっても過言ではない。 - ② 六本木
- 芸能人やスポーツ選手といった有名人が数多く遊ぶことで知られている“六本木”。
当然キャバクラもハイクラスなお店が揃っている。
そこで在籍するキャバ嬢は、モデルやレースクイーン、女優の卵なんてのも居るほどで女の子のレベルは非常に高く、東京随一と言ってもいいだろう。また、六本木交差点を中心とした盛り場には外国人も多く、朝まで踊れるナイトクラブも多数営業している。 - ③ 銀座
- “銀座”って高級クラブの街じゃないの?
そう、今も銀座は“座って5万円は当たり前”の高級クラブの街なのだが、バブル崩壊以降は“高級クラブ”と名乗っても、実質的には普通のキャバクラに近い店が増えている。
これらの店舗は高級クラブに比べると比較的料金がリーズナブルで、なおかつ銀座の雰囲気も味わえると注目を集めている。近年では、銀座の中でも一番格式が高いと言われている“銀座8丁目”にも、キャバクラや外国人系のパプクラブが増えている。※ここで挙げた3つの歓楽街の他にも、都心では池袋・渋谷・上野・新橋・五反田、郊外でも立川・町田、都内ではないが横浜・大宮など、数多くのキャバクラが営業している夜の街は枚挙にいとまがない。
この店舗数の多さこそ、東京エリアの最大の特徴である。 - 【東海>>名古屋】
- 東海エリア最大の都市、名古屋には“栄(さかえ)”(名古屋市中区)という一大繁華街がある。
そんな“栄”の北部に位置する“錦(にしき)”は、多くのキャバクラや風俗店などが店を構える歓楽街となっている。
“錦”を有名にしたのは、高級クラブの存在である。
中でも、錦三丁目では多くの高級クラブが営業しており、“錦三(きんさん)”という愛称で親しまれてきた。
だが、バブル崩壊後はこのエリアでも、リーズナブルで気軽に楽しめるキャバクラやガールズバーが増えた。このあたりの事情は銀座などと一緒だろう。事情通の人は、名古屋のキャバクラと言えば、『名古屋のキャバ嬢は髪型を“名古屋巻き”にしてるんでしょ?』と思うかも…。
名古屋巻きとは、ロングヘアーに立て巻きのロールをつけたドリルのような髪型で、2000年代後半に“キャバブーム”を巻き起こした、キャバ嬢のバイブル女性誌『小悪魔ageha』にも取り上げられて一世を風靡した。
しかし今ではブームの終焉もあり、名古屋巻きの女性はほとんど見かけない…。 - 【関西>>大阪】
- 西日本最大の都市、大阪には、東京と同様に数多くの夜の街がある。
大阪“梅田駅”、そして北新地界隈の“キタ”。
対して心斎橋・難波界隈の“ミナミ”、それに“十三”や“京橋”etc…
中でも“キタ”と“ミナミ”が知名度や規模からいって代表的な歓楽街である。キタとミナミ、それぞれの“キャバクラ街”としての傾向は…。
キタには“北新地”があることもあり、高級感のあるシックなイメージが強い。
北新地は東京の銀座にあたるエリアで、多くの高級クラブが軒を連ねていて客層も社用族が多い。
だが、銀座と同様、バブル崩壊以降は北新地でもキャバクラに近いスタイルのクラブが増えてきている。対してミナミは、キタよりも集まっている男性の年齢層が比較的若く、カジュアルに遊べるイメージである。
そんな客層に呼応するように、キャバ嬢たちの年齢もキタに比べると若く、上品な雰囲気を楽しむというよりも、賑やかに楽しめる店が多い。そんな大阪のキャバクラ、働くキャバ嬢の特徴は、とにかくトーク上手な女の子が多いこと。
さすが“お笑いの聖地”大阪である。
キャバ嬢たちはノリツッコミの基本をきちんと心得ているのだ。 - 【九州>>福岡】
- 九州を代表する大都市、福岡。その中心の西鉄福岡駅周辺“天神”エリアは、デパートやファッションビル、飲食店が軒を連ねる一大繁華街となっている。
しかし福岡の“夜の顔”は、何といっても天神の川向かい、日本三大歓楽街の一つに数えられる“中洲”である。
中洲は、文字通り川に挟まれた中洲の上に作られた歓楽街で、以前は多くの高級クラブが存在していたが、こちらもバブル崩壊後、高級クラブは減少傾向にある。
それを埋めるように、キャバクラや現地では“ハッスル”とも呼ばれるセクシーパブ、風俗店が数多く出店して賑わいを見せている。そんな中洲のキャバ嬢は“九州男児”を支えてきただけあって情が深く優しい子が多い。
また、彼女たちが話す博多弁がカワイイと、出張や観光で来た男性からの評判は上々。
■サービス料金やキャバ嬢のレベルなど…エリアによって違い
- そんな全国の有名な夜の街で働いてきたキヨシ君に続けて聞いてみた。
「予算の目安というか、サービス料金にエリア差はあるの? 例えば東京は高いとか…」
「どの街でも、3千円~5千円で飲める格安店もあれば、座っただけで軽く2万円~3万円する高級店もあるし、比較が難しいんですよね。 それでも同じレベルのお店ってことで比べると、東京が一番高くて次が大阪と名古屋、そして札幌、中洲、とリーズナブルになっていく感じですかね」
「こりゃ次の旅行は福岡だな(笑)。 キャバ嬢のレベルはどう?東京はレベルが高いって言ってたけど他の街はどうなの?」
私がそう言うと、少し離れたところでグラスを拭いていたマスターが素知らぬ顔で近づいてきた。
こと話が女の事に及ぶと、さすがのデビルイヤー、地獄耳である。「そりゃあ東京は日本全国から選りすぐりの女の子が集まってくるから必然的にキャバ嬢のレベルは高いですよ。 でも他の街もその地方のキレイどころが集まってくる訳だから負けず劣らずって感じですよね。方言も可愛いしな~」
「方言はよかね~(笑)。 それはポイントアップだね。」
■黒服の仕事内容や給料にエリア差はあるのか?
- 黒服の仕事内容にもエリアによって違いはあるのだろうか。
「いや、特にないですよ。 キャバクラはどこに行ってもキャバクラだし。ただ“すすきの”だとキャバクラは“おっパブ”なんで、ちょっと仕事内容が変わってきます」
「給料にエリアでの差はある?」
「黒服の給料は、正社員だと月給25万~30万円。 アルバイトでも時給1,200円~1,500円ぐらい。 もちろん同じエリアでも給料の高い店と安い店があるから一概には言えないけど、イメージ的には東京が高めで、次が大阪と名古屋、札幌と福岡がそれに続くって感じですかね…」
「それって、“サービス料金”の高低と同じだ」
「そうすね、要は東京と各地方の物価や平均賃金の違いが、料金や給料に反映してるんだと思いますね。だから地方に行って多少給料が下がっても、寮費や飲食費などが同じく下がるんで、地方は給料が安い、とはあまり感じなかったですね」
どこに行っても“住めば都”ということか。
■早ければ3ヵ月で“役職付き”に!
- ところで、今東京に滞在しているということは、キヨシ君はこれから東京で働くのだろうか?
「そうすね、今日歌舞伎町の店でバイトの面接を受けてきたんで…明日から速攻仕事っすね」
「前はどこの街で働いてたの?」
「先週までは大阪の“キタ”、北新地で社員として働いてました。居心地のいい店だったんすけど、その分仕事を頑張りすぎちゃって…働き始めて3か月なのに“役職”が付くっていう話が出ちゃって…」
「えっ、いいじゃん。給料も上がるんでしょ?」
「いや、役職なんて付いちゃったら“責任”が出てくるじゃないっすか。 どうせすぐに辞めるのに店に申し訳ないですからね…」
「さすが“旅ガラス”稼業が身についてるねー」
「キャバクラ業界って女の子もそうですが、黒服の回転も超速いんですよ。 1日で飛ぶ(辞める)バイトの奴なんてザラにいますしね。 だから男性従業員も早ければ3か月とか半年で役職へ昇進…みたいな話がバンバン出てくるんすよ。 俺の場合は、そんな話が出た時が次の街へ移るタイミングになることが多いですね(笑)」
そう言い残して“旅ガラス”のキヨシ君は今日の“巣”へと帰っていった。
しかし、昇進や出世のチャンスが来たら仕事を辞めるなんて、何とも不思議な男である…。
- 【キャバクラの黒服・給料や待遇など】
・資格:18歳以上。学歴、年齢、経験は不問
・給料:
[正社員]月給25万円~30万円スタート
[アルバイト]時給1,200円~1,500円
・待遇:寮完備、日払い可能
・早ければ3ヵ月~半年で役職への昇進、給料アップもあり。
んー、これはなかなか魅力的な仕事じゃないか。
私もちょっくら気分転換にこの街を飛び出して、しがらみのないどこかの遠い場所で…可愛い女の子がたくさんいるキャバクラで…黒服のバイトでもやってみようかなぁ~。そんな事を考えていると、マスターが私の前に来てニヤリと笑いながら言った。
「中洲のキャバクラかぁ…ロマンがあるねぇ。 一緒にバイトの面接に行ってみる?」
どうやら考えていることは同じらしい。
オレは笑いながら酒のお代わりを頼んだ。 - 【キャバクラの黒服・給料や待遇など】