【夜の街】ナイトレジャー業界の仕事は本当に“ブラック”なのか?
■コロナ禍で浮かび上がった“夜の街”に向けられた厳しい目
- “令和元年”。つい6~7年前までは“平成不況”やら“失われた20年”などと言われ、失業者が溢れていた我が国も、“人手不足”で倒産する会社が続出するような時代に入った。
雇用情勢は企業有利の“買い手市場”から求職者有利の“売り手市場”へと移り変わった…。と、誰もが考えていた“令和二年”。
状況をガラリと一変させる出来事が起こった。3月から始まった“新型コロナウイルス”の感染拡大である。
飲食業や旅行関連業などを中心に売上は激減し、今もなお多くの企業が経営に苦しんでいる。そして、苦境に陥った企業が事業を存続するために真っ先に手を付けるのは“人件費”である。
パートやアルバイトスタッフ、派遣社員の“雇い止め”、社員の“解雇”といった“人員整理”である。
今年の内定を取り消しにした企業も200社以上あるという。(厚生労働省発表)
今後もこのコロナ不況は“雇用悪化”や“企業倒産”という形で老若男女多くの人々の生活を直撃するであろう。そんな、コロナ感染“第3波”が懸念される中(令和2年11月)、息を吹き返しつつある業界があるのをご存知だろうか。
コロナ感染“第1波”で世間から目の仇にされた“夜の街”、“ナイトレジャー業界”である。
本稿でいうところのナイトレジャー業界とは、キャバクラやガールズバー、スナックや高級クラブ、またホストクラブといった接待を伴う飲食店や風俗関連業までを含んでいる。
三密対策、従業員や来店者の検温チェック、カウンターやテーブルにアクリルボードを設置する、店内の抗菌コーティング、フェイスシールドやマスクを着用しての接客、等々。
彼らは、第1波で世間から“悪者”扱いを受けたケガの功名とでも言おうか、いち早くコロナ感染予防対策に取り組んできた。
コロナ前と比較して客足が完全に回復したかと言えば“否”であるが、自治体や業界団体のルールを順守している店舗では徐々に売上は戻って来ている。
しかし、今回のコロナ禍においても再認識させられたのが、ナイトレジャー業界に向けられた“世間からの厳しい目”である。
ホストクラブなどが感染拡大の“主犯”として祭り上げられたのは記憶に新しい。なかでも「夜の街、ナイトレジャー業界の仕事なんてどうせブラックなんだろ?」といった扱いには驚かされた。
そもそも、“ブラック”な仕事か否かを判断する指標とは何なのだろうか?
筆者が察するに、それは以下の3つのポイントから判断されるのではないだろうか。1.業界の持つ “社会的イメージ”
2.収入や保険の有無といった “待遇面”
3.勤務時間や休日といった “時間面”そこで今回は、それらの視点から“ナイトレジャー産業の仕事が本当にブラックなのか?それともホワイトなのか?”検証していきたいと思う。
■ナイトレジャー業界の社会的イメージ
- ◆なぜ大手転職求人サイトに、ナイトレジャー業種の求人は掲載されていないのか?
「リクナ〇NEXT」「DU〇A」「エン〇職」など、TVのCMで度々見かける大手転職求人サイトにおいて、ナイトレジャー業界の求人情報はまず掲載されていないと言っていい。
それは何故か?
各サイトの営業マンに問うと「媒体の規定で “掲載不可業種”に指定されている」といった旨の答えが返ってくる。
しかし、どうしてそのような指定を受けるのか、さらに問うたところで誰も答えてはくれない。
だが概ね想像は出来る。
その理由は、ナイトレジャー業界が“公序良俗に反している”業種、と各媒体に認識されているためだ。
それは同業種が“風営法”の管轄下であること、そして極端な話「ナイトレジャー業界って正直言って“反社会勢力”が運営してるんでしょ?」というような、昔ながらのイメージに囚われているためである。だが、考えてみて欲しい。
このご時世、そんな反社会勢力が運営に関わっている店なんて、警察が黙って見過ごすことはないだろう。
また、確かに過去には風営法違反である無届けのイメージクラブや、風営法で定められた時間外に営業していたキャバクラなどが一斉摘発されたことはあった。
しかし今ではそういった話も聞こえてはこない。それどころか後に記すように、そうしたマイナスイメージを払拭するべく、尚更クリーンな経営を心掛けている企業や店舗が多い。故に、大手転職求人サイトに見られるようなステロタイプな捉え方で、ナイトレジャー業界を一括りに“ブラックだ”と決めつけてしまうのは大いに疑問である。
■ナイトレジャー業界の待遇面(店舗スタッフ)
- ◆給料や社会保険などの福利厚生面はどうなっているのか?
ナイトレジャー業界の給料はどの位なのだろうか。
今回はキャバクラや風俗店の店舗スタッフ(主に男性)の収入で見てみよう。「ドカント」に出ている求人を見ていただければお分かりになるだろうが、正社員で 月給25万~30万円スタートといったところが多い。
これは他の業界と比較しても、中々に高い水準の金額ではないだろうか。その上、この金額はあくまで基本給であり、多くの店舗では売上に応じたインセンティブ(歩合給)や皆勤手当などの各種手当が用意されており基本給に加算される。
そして昇格(出世)して役職が付けば、役職手当も加算され、さらにインセンティブの額も大きくなる。しかもその昇格するスピードは、一般のお堅い企業のようなゆっくりとしたペースではない。
ナイトレジャー業界は人の出入りが激しいこともあり、実力次第で早期の出世も可能で、入社後数年で店長に昇格して、 20代で年収1千万円以上の高収入を手に入れた、といった話も多く聞かれる。このように、収入面においてナイトレジャー業界はブラックどころか、圧倒的に“ホワイト”であると言える。
次に待遇面についてだが、正直に言って20年程前までは、ナイトレジャー業界は給料が良い反面、社会保険や有給休暇の有無といった福利厚生面は必ずしも良いとは言えなかった。
また働く側も、どちらかというとそのような待遇面より、少しでも高い収入を求めていた側面があり、結果的にうまくバランスが取れていたような状況であったと言えるだろう。しかし、ブラック企業の存在が社会問題化し、若者の安定志向が時代と共に高まってくると、ナイトレジャー業界も旧態依然とした福利厚生施策では人手が集まらなくなってしまった。
それに伴ってキャバクラや風俗店も徐々に店舗スタッフの待遇面の向上に力を注いできている。再度「ドカント」を覗いてみよう。
そこに掲載されているキャバクラや風俗店の求人広告には、
・社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険)完備
・日曜定休(連休OK) 有給休暇あり
・個室マンション寮完備
・日払い制度あり
・交通費全額支給
といった手厚い待遇が記されている。
このように、待遇面においてもナイトレジャー業種はブラックとは言えなくなってきている。 ■ナイトレジャー業界の勤務時間(店舗スタッフ)
- ◆『1日12時間労働で週休1日』は改善されたのか?
ブラック企業であるかどうかの最も重要な指標となるのは、勤務時間や残業時間、休日の日数だと言われる。
ナイトレジャー業界はというと…、正直これまではブラックと言われても仕方のない状況にあった。というのも、3~4年前まで、風俗店は1日10~12時間勤務、週休1日といった勤務体系が当たり前だった。
ひどい例だと、夕方5時から翌朝5時まで12時間働いて、当日の昼には再び出勤するデリヘルスタッフの話など耳にしたこともある。
キャバクラも、以前は風営法に違反する形で深夜・翌朝まで営業していた店舗も多かったので、当然に勤務時間が長くなり休日といえば週1日の定休日のみ、といったケースも珍しくなかった。
とにかく長時間労働が目立つ業界であった。これも待遇面と同様、以前は高収入であるがゆえに働く側もある程度納得していた部分もあるのだが、もちろん今の時代、それでは働き手は集まらない。各店ともに改善を進めている。
現在、「ドカント」で各店の勤務時間欄や休日欄を見ると、実働8時間・週休2日制 の風俗店はすぐに見つかる。
キャバクラも大部分が風営法に沿って24時(エリアによっては翌1時)に閉店するようになり、必然的に勤務時間は減少、週休2日制の店舗も数多く見られるようになってきた。しかも、そういった店舗が他と比べて収入面や待遇面で見劣りするかというと、決してそのような事はない。
これは労働時間の短縮によって他の条件が犠牲になることなく、ナイトレジャー業種の労働環境がブラックから脱していることを示している。 ■【体験談】キャバクラに勤務する男性スタッフの実情
- ◆キャバクラに転職した際の周りの反応は?
それでは論より証拠、実際にキャバクラで働いている男性スタッフにナイトレジャー業界の実情を聞いてみよう。- 石沢氏(仮名)東京都多摩地区出身の26歳
- ・勤務先:都内キャバクラグループ店
・役 職:マネージャー
・勤務歴:1年10ヵ月
ダークグレーのスーツを爽やかに着こなすイケメンの石沢氏を前に思わず聞いてしまう。
――編集部:全くの独断ですけど、夜の世界で働く人って派手なスーツでギラギラしてるイメージを持ってたんですが、全然違いますね。
石沢氏「昔かたぎな上司の中には、そういう人もいますけどね(笑)、でも僕と同年代のスタッフでそんなファッションしてる人はいないですね」
――普通に昼職のイケてるサラリーマン風というか…。
「いやいや、普通のサラリーマンなんですけど(笑)」――そうですよね、でも夜の歓楽街で仕事…と考えると、やっぱり昼職の勤め人とはちょっと違いますよね。キャバクラの仕事を始める時に周りの反応ってどうでしたか?例えばご両親には伝えてますか?
「転職した時に伝えました。反応は…、僕の両親は●●●駅前で居酒屋をやってるんです、だからなのか水商売に対しての偏見もないみたいで…。キャバクラの会社に転職することを話したら『大変だろうけど頑張んな』って言われて終わりでしたね」
――もともと理解のある親御さんだったんですね。当時はお付き合いしている彼女さんはいましたか?
「いましたけど、彼女も仕事の待遇面なんかを話したら『給料上がるんだったらいいんじゃないの』って感じで全然気に掛けない様子でしたね」
――これまた理解のある彼女さんだったと。
「ただ『店の女に手を出したら殺す!』ってクギは差されましたけどね(笑)」
――おお!でもまだ生きてるっていうことは手を出してないと?
「もちろん!ウチの店、風紀(男性スタッフと女性キャストが関係を持つという意味の業界用語)は罰金100万円なんで…。罰金を払った上に殺されるなんて割に合わないですから(笑)」
――友達の反応はどうでした?
「最初は『キャバ嬢とヤリ放題だろ?』なんてバカにしてましけど、給料の話をしたら皆驚いてましたね」
■ナイトレジャー業界で働く前の職業は?
- ――“転職”と言うことは、今のお店に入社する前はどんな業界で働いていたんですか?
「アパレル関係の会社で働いてました」
――だからオシャレなんですね。それで転職を思い立った理由は?
「とにかく忙し過ぎで…残業や休日出勤は当たり前で年末年始やお盆、ゴールデンウイークもほとんど出勤ですから…。しかもサービス残業ばかりで、勤務時間の割には給料安いし…社内販売で服も買わなきゃいけないし…」
――それは、典型的なブラック企業…じゃないですか…。
「もともとアパレルとかファッション業界って、そういう(ブラック)傾向があることは分かってたんですけど、やっぱり仕事量に見合った給料が欲しいと思いましたね…」
――でも何故転職先をナイトレジャー業界に決めたんですか?
「全然深い理由はありません。残業が終わって深夜に帰宅して『あ~もうイヤだ~』なんて思いながら、スマホで求人サイトを検索してるうちに、そこに載っていた“幹部候補募集・月給50万円以上”っていう求人に惹かれた感じですよ」
――ナイトレジャー業界に抵抗はありませんでしたか?
「正直、性風俗店には抵抗がありました。だけどキャバクラには特に無かったですね。実家が居酒屋なんで、ジャンルは違えど“飲み屋”だろ、って感覚だったんで…」
■キャバクラで働く石沢氏の給料や待遇面は?
- 石沢氏は現在のキャバクラに入社後、アパレル業界で身に付けた“スマートな立ち居振る舞い”と、ブラック企業を経験したことにより図らずも身に付いた“忍耐強さ”を発揮して順調に昇格をしていく。
――現在“マネージャー”の役職に就いてますが、入社した時と現在のお給料について教えて下さい。
「入社した時は月給28万円だったのが今は基本給40万円です。それと今は売上に応じたインセンティブ(歩合)がだいたい10万円程入る…、そんなところですね」
――月収50万円以上ですか、20代半ばにしては相当な高給取りですね。
「ウチの場合、“店長”やその上の“エリア統括”になれば月収100万円を軽く超えますから」
――今のお店の福利厚生面はどんな感じなのでしょう?
「社会保険は完備してるし、有休制度もあります。それとマンションに寮があって、不動産屋を通じて借りる場合の半額程度の家賃で入れます。日払い制度やスーツも支給されるんで、地方から体一つで上京してくる人も多いです、すぐに仕事が始められますからね。後は…お店にキッチンがあるので“まかない”が出ます。食費も浮くし好評ですね」
――“メシ付き・家付き・スーツ付き”なんて、すごい充実してますね。
「そうですね、給料を始め条件面は前職より格段に上がってます。文句は全くないですね」
■月収50万円を稼ぐスタッフの勤務時間や休日は?
- ――非常に良い待遇ですけど…その分、長時間労働や休日出勤など“ブラック”なのでは?
「勤務時間は夕方5時~翌2時迄、その間休憩も取れるので、実働8時間です。残業とかは一切ありません。休日は週休1日、ただし週休2日も選択出来るようになってます。僕は今のところ休日手当が出るので週休1日でガンガンやってます」
――自分のスタイルに合わせて休みの日数が選択できるのもいいですね。
「ウチはアルバイトでも働けます。時給1,200円スタートで、学生やフリーターの人でも週3日から働けます」
――なるほど、最初から正社員で毎日働かなくてもOKなんですね。
「そうですね、女性キャストと同じく男子スタッフも“体験入店”ができます。『1日仕事を体験してお店の雰囲気を見てから入社を決めて下さい』って感じですね」
――何か良い事ばかりで面白くないですね(笑)。 働いていてイヤな事はないんですか? 上司のノリが体育会系とか、オラオラ系とか、酔っ払いのお客が嫌だとか?
「うーん…上司も普通にリーマンっぽいからなぁ(笑)。 怒鳴られたこともないですし…。泥酔するお客さんは、月に一人二人とか…たまにいますね。だいたいはキャストが上手くあしらいますけどね。そもそも泥酔者は店に入れませんから」
――それじゃあ良い事ずくめじゃないですか…ずるい。
「そうそう、たまに仕事終わりでお店の女の子達と飲んだりするのはキツいです。体力的にも精神的にも…。女の子はストレスがハンパじゃないんで、深夜から昼過ぎ頃までメッチャ飲むわ歌うわで…」
――ええ?それはご褒美じゃないですか!
「いやいや~、お客さんとか同僚の女の子のグチから始まってお店の文句とか…超ドギツイですからね(笑)。 もう女性不信になりますよ…」
――いつでも私を誘って下さい!そして今後もこの業界で生きていくと。
「そうですね。人によっては胡散臭い業界だと思われるかもしれないですけど、僕はこの仕事結構気に入ってるんで」
■【まとめ】ナイトレジャー業界は“ブラック”or“ホワイト”?
- ここまでナイトレジャー業界の仕事、その実態について記してきた。
その上で問いたい。
ナイトレジャー業界の仕事は “ブラック”なのか?
賢明な皆さんならお分かりだろう。 もちろん答えは「ノー」だ。もともとの高い給料水準、さらに近年における待遇面や勤務条件面の目覚ましい改善なども加味すると、 むしろ“ホワイト”といっていいくらいだ。
しかしそれでもまだ、過去のマイナスイメージから「ホントに~?」と疑っている人はいるだろう。
しかし、そんなマイナスイメージを払拭するために、法律の遵守はもちろん、待遇面や勤務時間・休日といった時間面を改善する努力を各店が行ったことにより、ナイトレジャー業界の仕事が“ホワイト”に向かったと言えるのだ。もちろん、中にはまだ“ブラック”な店舗はあるかも知れない。
しかしそれは他の業界も同じである。
また、現在ではこの「ドカント」のような男性向け高収入求人サイトに、多数のナイトレジャー業界の店舗が求人情報を掲載しており、募集条件の詳細を比較しチェックすることが出来る。
そして、SNSの発達により、募集情報に“ウソ”があるとすぐに発覚する可能性が高く、そこからブラック企業が明るみに出るようになった。
そのような事情もあって、情報の信頼度も上がって来ている。ここはひとつ、過去のイメージを振り払い、仕事選びの際には“ナイトレジャー業界”を選択肢に加えるのもアリではないだろうか…。